第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「だけど……指導のせいかな」

ディランの口元が、ゆっくりと歪む。
その笑みは誇らしげでありながら、どこか人を嘲るような影を落としていた。

「次期王としての資質は十分だった。
強さも、賢さも、美しさも――すべて備えていた」

胸が締めつけられる。
本来なら祖父が孫を褒めるときの言葉のはずなのに、
今の声には温度がない。
あるのは、冷たい計算と、所有物を眺めるような歪んだ満足だけ。

「ただ……心も強くなりすぎた」

ディランの瞳が、暗い光を宿して私を射抜く。

「大切なものも、執着するものもなくてね。
一時期は、人形のようだったよ」

背筋が震える。
ジョルジュ陛下の声には、失望と同時に、奇妙な愛おしさが混じっていた。
まるで“理想の作品が未完成だった”と嘆く芸術家のように。

「完璧に育てすぎたんだ。
弱みも、隙も、揺らぎもない――そんな器では、私が入り込む余地がなかった」

息が止まる。


「だけど君だよ、ティアナ」

名を呼ぶ声は、甘く、ねっとりと絡みつく。
耳の奥に残り、逃げ場を奪う。

「君のおかげでディランは変わった。
大切なものを失う怖さを知り、弱さを見せた」

胸が痛む。
それは本来、彼が“人間らしさを取り戻した”証のはずなのに――
今はそれが、最悪の形で利用されている。

「しかも君は共鳴が使える。
その力は貴重だ」

ディランの瞳が、宝石のように妖しく揺らめく。

「ディランの器。
そして――お前の血と魂」

声が低く沈み、空気が震えた。
部屋の温度がさらに落ち、息が白くなりそうなほど冷たい。

「それがあれば、私は完璧な王となれる」

その宣言は祝福の言葉のように響いた。
だがその実、底なしの欲望と狂気が渦巻いている。

目の前にいるのは“王”でも“祖父”でもない。
永遠を求め、孫を理想の器へと作り替えた――
ただの怪物だ。