第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ユウリside

「……お嬢様」

胸の奥がざわりと震えた。
蒼い気配——お嬢様の共鳴が、いつもよりずっと強く、荒く脈打っている。
必死に走っている。迷いもためらいもない。
その“焦り”が、痛いほど伝わってきた。

「場所は……遠くない」

息を整えながら周囲の気配を探る。
その瞬間、もうひとつの存在が鋭く胸を刺した。

「殿下の気配も……こちらだ」

レイも同じ方向を見据え、表情を引き締める。
普段は冷静な彼の瞳に、焦りが滲んでいた。

「殿下……」

「急ぎましょう!」

言葉を終えるより早く、私たちは地を蹴った。
風を裂く音が耳を打つ。
お嬢様の蒼い粒子が、かすかに通路に残り、道を示すように揺れている。

「こっちです!」

「ええ!」

私の声にレイが即座に頷く。
仲間たちの気配が次々と同じ方向へ向かっているのが分かる。
皆、お嬢様の共鳴に気付いたのだ。

蒼い光が、まるで必死に“助けを求めている”かのように震えている。
その先に——殿下と、お嬢様がいる。

胸が強く締め付けられる。
嫌な予感が、背中を押すようにどんどん膨らんでいく。

迷いは一切ない。
ただ前へ。
ただ、間に合うために。

私たちは息を切らしながら、全力で走り続けた。