第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディラン……お願い、無事でいて。

前へ進む。
もうすぐだ。確かに感じる——ディランの気配が、弱々しく揺れている。

なのに。

――また魔宝獣が現れた。
通路を埋め尽くすほどの数。
まるで“行かせまい”とでも言うように、牙を剥いて迫ってくる。

「お嬢様、先に行ってください!」

「俺たちもすぐ追いつく!」

セナとテオの声が、焦りを帯びて響く。

「ありがとう!」

私は息を吸い込み、震える指先に魔力を集中させた。

「蒼き想いよ、応えて——ラピスラズリ!」

共鳴が発動する。
光の粒子が指先から溢れ、セナとテオへと流れ込んでいく。
蒼い輝きが2人の身体を包み、その動きに鋭さと速度を与えた。

息が荒い。
胸が痛いほど脈打つ。
焦りが燃えるように身体を突き動かす。

——ディランが待ってる。
その想いだけが、足を前へと押し出す。

だが、進む先にまた魔宝獣が飛び出した。
牙を剥き、通路を塞ぐように群れを成して迫ってくる。

「どいて……!」

迷いはない。
踏み込み、剣を振り抜く。
蒼い風が爆ぜ、斬撃のように魔宝獣を薙ぎ払った。

それでも足は止まらない。
止めてはいけない。

必死で、ただ前へ。
共鳴する魔力が、走るたびに強く脈打ち、胸の奥で警鐘のように響いていた。

——急がなきゃ。
本当に、もう時間がない。