第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


だが——角を曲がった瞬間、空気がざらりと震えた。

「っ……来る!」

警告と同時に、通路の影が裂けるように揺れ、複数の魔宝獣が飛びかかってきた。
黒い毛並みを逆立て、赤い瞳が獲物を捉えている。

「お嬢様、下がって!」

セナが反射的に前へ飛び出す。
その動きは鋭く、迷いが一切ない。

「我が剣に従え——アクアマリン!」

淡い水色の光が剣を包み、氷の刃が閃いた。
魔宝獣の動きが一瞬で凍りつき、砕け散る音が通路に響く。

だが、息をつく暇などなかった。
反対側の通路から、さらに別の魔宝獣が飛び出す。

「紅く鋭く——我が想いに応えよ、スピネル!」

テオの剣が紅く燃え上がり、弧を描く斬撃が空気を裂く。
紅い光が魔獣の身体を切り裂き、火花のように散った。

「ありがとう、2人とも!」

言い終える前に、地鳴りのような唸り声が奥から響いた。
先ほどのものより明らかに巨大な魔宝獣が、壁を揺らす勢いで突進してくる。

胸が強く脈打つ。
——時間がない。

私は深く息を吸い、魔力を一気に解き放った。

「蒼き風よ——導け、ラピスラズリ!」

足元から蒼い風が爆ぜるように巻き上がり、私の周囲を駆け抜ける。
風は鋭い刃へと変わり、迫る魔宝獣へ一直線に突き進んだ。

「どきなさい!」

蒼い斬撃が魔宝獣を切り裂き、蒼い光の粒が通路に散る。
風の余韻がまだ残る中、私は前を睨みつけた。

「……ディランの気配が、もっと弱くなってる。急ぐよ!」

「はい」

「わかった!」

セナとテオが、緊張に満ちた表情で力強く返事をした。