「ティアナはどこだ?」
低く押し殺した声に、ジョルジュはふっと笑った。
「ついてきなさい」
背を向けて歩き出すその姿には、命令というより“確信”があった。
まるで、俺が逆らえないことを知っているかのように。
足が勝手に動く。
怒りで震えているはずなのに、身体の奥が妙に冷たい。
薄暗い通路を抜けた先——
そこは、古い魔法陣が床一面に刻まれた部屋だった。
ジョルジュが手をかざすと、魔法陣が淡く光り始める。
空気が震え、胸の奥がざわりと波打つ。
「さて……見せてやろう」
祖父は懐から、小さな銀の箱を取り出した。
蓋を開けた瞬間、ふわりと光がこぼれ——
そこにあったのは、
スミレ色と桃色が混ざる、柔らかな髪。
ティアナの髪。
「……っ!」
息が止まる。
胸が締めつけられ、視界が揺れた。
「ティアナは……無事なんでしょうね」
必死に声を絞り出すと、ジョルジュは愉快そうに笑った。
「無事かどうかは……お前次第だ」
その瞬間、魔法陣の光が強くなり、
足元から冷たい何かが這い上がってくるような感覚に襲われた。
「やめろ……!」
「抵抗するな。
ティアナの髪は“鍵”だ。
お前の精神は、彼女を想うほどに脆くなる」
胸の奥に、鋭い痛みが走る。
ティアナの髪が揺れるたび、心が引き裂かれるようだった。
「……っ、く……!」
膝が落ちる。
視界の端が暗く染まり、思考が濁っていく。
ジョルジュの声が、頭の中に直接響いた。
「さあ、ディラン。
お前の身体を借りるとしよう。
“器”として完成したその肉体をな」
魔力が精神に食い込み、
意識がゆっくりと押し流されていく。
——ティアナ。
来るな。
絶対に、ここへ来るな。
願いは、声にならなかった。



