第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「俺はなぁ――強くなったんだよ」

タキは誇示するように胸を張り、宝石に触れた。
どくん、と脈打つたび、空気が濁る。

「この宝石で! 無敵にな!」

「……そんな偽物」

私は一歩、前に出る。

「美しくなんか、ないわ」

その一言で、タキの表情が一瞬で歪んだ。

「それは――勝ってから言えよ!」

鞘鳴りとともに、タキが剣を抜く。
刃は黒く霞み、禍々しい魔力を纏っていた。

私も腰の剣に手をかける。

「レオ、下がって」

「お、おう……!」

深く息を吸い、剣を引き抜く。

「美しく 酔いしれなさい――ローズクォーツ」

魔力を流し込むと、薔薇色の光が剣を包み、花弁のように舞い散る。
一振りごとに、香り立つような魔力が空気を染めていく。

「……相変わらず、気取った剣だな」

タキが吐き捨てる。

「美しさを理解できないなら」

私は剣先を向け、静かに告げた。

「――教えてあげるわ」

薔薇色の光と、赤黒い魔力。
相反する2つの輝きが、迷宮の中でぶつかり合おうとしていた。