第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

すっと、空気が変わった。

肌を撫でるような、鋭く冷たい気配。

「……なんか騒がしいなぁ」

その声。

心臓が、嫌な音を立てる。

「……あなたは」

影の中から現れた男は、口元を歪めて笑った。

「あれ、懐かしいな。ルイじゃねぇか。
公爵家の騎士団をやめたと思ったら、今度はデザイナー?
いやぁ、人生って分かんねぇよなぁ」

くつくつ、と喉を鳴らす。

「タキ……」

私は視線を、彼の胸元へ落とした。

「……あんた、それ何よ。その下品なアクセサリー」

胸に嵌め込まれた禍々しい魔宝石。
赤黒く脈打ち、見ているだけで頭がくらつく。

――間違いない。
禁忌の魔宝石、魔女の雫。

嫌な予感が、確信へ変わる。

「……ルイ、だれ?」

背後からレオがひょこっと顔を出す。
完全に状況が分かっていない声。

「昔の同僚よ」

視線はタキから外さない。

「……でも、見た目はだいぶ変わったわね」

かつての面影はほとんどない。
あるのは、歪んだ高揚と、力に溺れた目。