第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「殿下」

一歩、前に出る。

「どうした? レイ」

「レイさん?」

殿下とティアナ様が、同時にこちらを見る。

「殿下……確かに、今のあなたは私の理想です」

静かに告げる。

「ですが、それは殿下ではありません」

2人の表情がわずかに揺れた。

「私が知っている殿下は、次期国王の座に興味がないくせに、それでも誰よりも国民のために動く方です」

胸の奥が熱くなる。

「今のあなたは……つまらない」

ティアナ様が息を呑む気配がした。

「私が尊敬し、お支えしているのは、 いつも抜け出すことばかり考えて、挙句の果てに『レイを王子にする』なんて軽口を叩くような人です」

言葉が自然とこぼれる。

「手がかかるけれど……
 私は、そんな殿下がいいんです」

殿下の姿が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。

レイは視線をティアナへ向ける。

「ティアナ様……私は、あなたこそ殿下の隣に立つべき方だと思っています」

ティアナの瞳が揺れる。

「今のあなたは、完璧な理想です。
 ですが……あなたも殿下と同じです。
 そんな“型”に収まる方ではない」

静かに息を吸う。

「私は行きます」

踵を返した瞬間——

幻は、何も言わずに霧のように消えた。