一瞬、視線を伏せると、レイは迷宮の奥を見据えたまま続けた。
「この迷宮……出口は一つじゃない気がします。
何個か、あるはずです」
根拠のない希望ではない。
状況を冷静に切り分けた言い方だった。
「きっと、大丈夫なはずです」
「レイさん……ありがとうございます」
胸の奥に溜まりかけていたものが、少しだけ下りる。
だが――
(それよりも)
足元の石畳。
空気の流れ。
音のないはずの空間に、何かが混じる。
「……何か、ありますね」
低く告げる。
「はい」
レイは短く応じ、武器に手を掛けた。
その先。
視界の奥に、嫌な気配が滲む。
「ここですかね」
部屋の前で足をとめる。
「そうですね」
レイも短く答えた。
部屋の空気は、外からでも分かるほど重い。
石壁の向こうから、じっとりとした“罠”の気配が滲み出ている。
「ですが、ここを突破しないと次には行けなさそうですね」
レイの言葉に、私も小さく頷いた。
深く息を吸い、警戒を最大まで引き上げる。
そして――部屋へ足を踏み入れた瞬間。
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
床が傾いたわけではない。
空気が揺れたわけでもない。
ただ、自分の目と意識だけが、別方向へ引きずられたような奇妙な感覚。
胸の奥がひやりと冷たくなる。
(……なんだこれは)
思考が一瞬だけ白く途切れ、次の瞬間――
見覚えのある赤い絨毯が視界の端に滲んだ。
磨かれた手すり。
高い天井。
伯爵家の玄関ホール。
いや、違う。ここは迷宮だ。そんなはずはない。
揺れる視界の中で、迷宮の石壁と伯爵家の廊下が、まるで水面のように重なり合っていた。
「この迷宮……出口は一つじゃない気がします。
何個か、あるはずです」
根拠のない希望ではない。
状況を冷静に切り分けた言い方だった。
「きっと、大丈夫なはずです」
「レイさん……ありがとうございます」
胸の奥に溜まりかけていたものが、少しだけ下りる。
だが――
(それよりも)
足元の石畳。
空気の流れ。
音のないはずの空間に、何かが混じる。
「……何か、ありますね」
低く告げる。
「はい」
レイは短く応じ、武器に手を掛けた。
その先。
視界の奥に、嫌な気配が滲む。
「ここですかね」
部屋の前で足をとめる。
「そうですね」
レイも短く答えた。
部屋の空気は、外からでも分かるほど重い。
石壁の向こうから、じっとりとした“罠”の気配が滲み出ている。
「ですが、ここを突破しないと次には行けなさそうですね」
レイの言葉に、私も小さく頷いた。
深く息を吸い、警戒を最大まで引き上げる。
そして――部屋へ足を踏み入れた瞬間。
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
床が傾いたわけではない。
空気が揺れたわけでもない。
ただ、自分の目と意識だけが、別方向へ引きずられたような奇妙な感覚。
胸の奥がひやりと冷たくなる。
(……なんだこれは)
思考が一瞬だけ白く途切れ、次の瞬間――
見覚えのある赤い絨毯が視界の端に滲んだ。
磨かれた手すり。
高い天井。
伯爵家の玄関ホール。
いや、違う。ここは迷宮だ。そんなはずはない。
揺れる視界の中で、迷宮の石壁と伯爵家の廊下が、まるで水面のように重なり合っていた。



