第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


さらに奥へ踏み込んだ瞬間、テオが鋭く叫んだ。

「お嬢様、危ない!」

テオが抱き寄せるように、自分の背後に私を庇い、セナが私の腕を引く。

次の瞬間、テオの周囲だけがゆらりと揺れ、空間が切り取られたように遮断された。
まるで薄い膜が張られたように、そこだけ世界が歪んでいる。

「て、テオ……?」

彼は一瞬、手をふわりと振った。

セナが低く呟く。

「……魔術空間ですね。こちらからは見えるけど、向こうからは見えないタイプの」

「そんな……」

「騎士団で聞いたことがあります。あの空間に入ると精神作用の技をかけられて、
その人が“最も大切だと思う相手”が現れる。
そして――その相手を傷つけられないと、出られない」

「それって……」

「はい。テオにとって大事なのは、お嬢様です」

その言葉と同時に、空間の中に“私そっくりの人形”がふわりと姿を現した。

「わ、わたし……!?」
思わず声が裏返る。

「よく似ていますね……」
セナが小さく息を呑んだ。