第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

セナとの会話が、ふいに胸の奥でよみがえった。

――わかってる。
ちゃんとディランと話をしなきゃ。
このままじゃ、前に進めない。

頭では理解しているのに、心が追いつかない。
考えれば考えるほど胸が重くなっていく。

「はああ……」

深く息を吐くと、夜の静けさが、余計に不安を大きくする。

向き合わなきゃいけないのに、どうすればいい。
セナの言葉は正しい。
でも、正しいからこそ胸に刺さる。

そんな沈んだ空気の中――


「お嬢さーん!!」

廊下の向こうから弾む声が響き、次の瞬間、レオが勢いよく扉を押し開けて入ってきた。
コーラルオレンジの髪が揺れ、陽だまりみたいな笑顔が部屋を一気に明るくする。

「レオ、どうしたの?」

椅子から身を起こすと、レオは胸を張って言った。

「お嬢さん、王妃教育お疲れ様でした!」

じゃじゃーん、と口で効果音をつけながら、
彼は私の目の前のテーブルに大きなワンプレートをそっと置いた。

甘い香りがふわりと広がる。

ガトーショコラの濃厚なチョコの香り。
つやつやと揺れるカスタードプリン。
真っ白な生クリームがふわりとのったショートケーキ。
そして、冷気をまとったアイスクリームがきらりと光る。

「レオすごい!私の好きなものばっかりだよ!!」

思わず声が弾んだ。胸の奥が一気にほどけていく。

「お嬢さん、いっぱい頑張ってきたでしょ?
だからご褒美だよ!」

レオはいつものようにニコニコと笑う。
その笑顔を見るだけで、張りつめていた心がゆるんでいく。