第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「あ、やば。切っちゃった」

テオがそう言った瞬間、石像の数がさらに増えた。

――そのとき。

「お嬢様、下がってください」

「わかった」

「テオも」

「はいはーい」

私たちの返答を聞くと、セナは静かに剣を構え、低く詠唱を始めた。

「我が剣に従え――アクアマリン」

淡い蒼光が刃を包み、冷気が部屋を満たす。

次の瞬間、
剣から氷の矢のような斬撃が放たれた。

――ズドン。ズドン。ズドン。

正確無比。
囲んでいた石像の頭部を、寸分違わず撃ち抜いていく。

砕け散った石片が床を転がり、
部屋に静寂が戻った。

「……全部同時に壊せば、関係ないですね」

「まあ、そうね」

思っていたのとは違うけど……結果オーライ?

「さすが、セナ!」

私がそう言うと、テオも笑った。

「へぇー、やるじゃん」

セナは剣を下ろし、静かに息を整える。

「ありがとうございます」

淡々とした声。
氷の矢が消え、アクアマリンの宝石も元の姿に戻った。

「それにしても……」

床に散らばる石片を見渡す。

「こんな罠を仕込むなんて」

「相当、奥まで来られたくないんだろうな」

テオが肩をすくめる。

「――あのタヌキジジイ」

名前を出さずとも、全員が同じ相手を思い浮かべていた。

「行きましょう」

セナが前を見据える。

「うん」

私は頷き、迷宮の奥へ視線を向けた。
まだ、こんなもんじゃ終わらない。