第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

迷宮の通路は、王城の地下とは思えないほど静かだった。
足音が石床に吸い込まれていくようで、歩くたびに胸の奥がざわつく。

そして――

薄暗い部屋に足を踏み入れた瞬間、思わず足が止まった。

壁際から中央にかけて、猫のような獣の石像がずらりと並んでいる。

「……多くない?」

数えようとして、途中で諦めた。
10体以上。下手すると20はある。

「とりあえず壊してみる?」

テオが軽く言い、剣を抜く。

「紅く鋭く、我が想いに応えよ――スピネル」

赤い光が刃を包み、一閃。
石像の一体が両断され、砕けた石が床に崩れ落ちた。


だが次の瞬間。


砕けたはずの破片が、ぎしりと軋む音を立てて動き出す。
石が引き寄せられるように集まり、元の形へと戻り始めた。

「ありゃ」

テオの間の抜けた声。

しかも――

増えている。

嫌な予感が背中を這った。

「……これ、もしかして」

私は喉を鳴らす。

「正解を一つだけ選ばないとダメなやつ?」

「まあ、動かないだけマシだよね」

テオがそう言った、その瞬間。

ゴリ……と、石が擦れる音が四方から響いた。

「……え?」

石像たちが、一斉にこちらを向く。

重たい足音。
逃げ道を塞ぐように、ゆっくりと距離を詰めてくる。

「動くじゃん、それ!」

「でも、無闇に斬るわけにはいかないですよね」

セナが静かに言った。

「魔宝石が使われているはず!
悪意のある個体を見つけないと」


私は、スッと息を吐き、
集中する。

どこだ…

ほんのわずかな違和感。
他より、わずかに濁った気配。

――黒いモヤ。

見えた!

「セナ、右から3番目!」

「任せてください」

セナが一歩、前に出る。

その瞬間――

猫の石像たちが一斉に動き出した。

「まずい、もう分かんないです!」

「俺も!」

セナとテオが叫ぶ。

「ほら、あの……目つき悪いやつ!」

私が慌てて指さす。

「全部同じです!」

「今度は左から4番目!」

「えー、どれ!?」

ダメだ。

完全に混戦だ。