第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ねえ、お嬢様」

突然、テオが真剣な顔で言った。

「その髪、俺もらっていい?」

「……え?」

足元に散らばる、切られた髪を指さす。

「いいよね!?
絶対いいよね!?」

「え、いるの?」

「いる!!
絶対いる!!
家宝にするから!!」

「……す、好きにして」

私がそう言うと、テオは目を輝かせてしゃがみ込み、
バラバラに落ちた髪を丁寧に、せっせと集め始めた。

「……本気ですね」
セナがぽつりと呟く。

「ほんとにね」
思わず苦笑が漏れる。

セナがふと、私の顔をじっと見つめた。

「ん?」

首を傾げると、少し困ったように視線を逸らしながら言った。

「髪を切られて……
一番ダメージを受けているのは……」

ちらりと、床に座り込んで髪を集めているテオを見る。

「……我々の方ですね」

「ほんとだよ!!」

テオが珍しくセナの意見に全力同意した。

3人の間に、妙な沈黙が落ちる。

……でも、不思議と、怖くはなかった。

この状況でも、
こうして笑える人たちがいる。

「なんか……セナとテオ、2人がいると心強いね」

そう言って笑うと、

「当たり前でしょ」
テオが胸を張る。

「はい。頼ってください」
セナも静かに頷いた。

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

――それだけで、少しだけ心が軽くなった。