第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランside

ティアナを無事に送り出したあと、
令嬢たちの輪をどうにか振り切って廊下へ出た瞬間――胸の奥がざわりと波立った。

ジョルジュ陛下の姿が、どこにもない。

つい先ほどまで玉座の間にいたはずだ。
レイもいない。
だが護衛も侍従も、誰ひとりとして彼の行方を知らない。

「……くそ」

嫌な予感が、氷の指先で背骨をなぞる。

あの男が姿を消すときは、決まって何かを仕掛けるときだ。
ましてティアナを送り出した直後――最悪のタイミング。


歩幅が自然と大きくなる。
進むほどに胸のざわめきは、警鐘のように激しさを増していった。

そして――

角を曲がった瞬間、空気が変わった。

騎士団たちが剣を抜き、こちらへ向けて構えている。
その刃先は微かに震えていたが、俺を狙う角度だけは揺らがない。

「……何をしている」

低く問いかけても、誰も答えない。
ただ怯えを隠しきれない目だけが、俺を射抜いてくる。

ゆっくりと、俺も剣に手をかけた。

(――やる気か)

静寂が、爆ぜる寸前のように張りつめた。