第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

近寄ろうとしたがさらに、強い力で腕を掴まれた。

「――っ!」

抵抗する間もなく、
私は陛下の部隊に引きずられ、無理やり前へ突き出される。

「お嬢様!」

セナが動こうとした瞬間――

「動くな」

冷え切った声が、空気を裂いた。

「これ以上動けば……
 お嬢様の顔に、傷がつくぞ」

長い剣が、私の頬すれすれに突きつけられる。
ひやりとした殺気が肌を刺し、喉がかすかに鳴った。

セナも、テオも、皆が動きを止める。

私は息を整え、顔を上げた。

「……やっぱり、そうだったのね」

ジョルジュ陛下の眉がわずかに動く。

「ガイルの件も、ディランのご両親の件も。
 全部、あなたの計画の一部だった」

「最初から……そのつもりだったのでしょう?」

にらみつけると、陛下はゆっくりと笑った。

「そうだ」

私は自分の手がわずかに震えているのを感じた。
でも、握りしめて押しとどめる。

「あなたの計画に、私たちは屈しない」

陛下の笑みが深くなる。

「強いな。ディランが執着するのもわかる。
 だからこそ“鍵”として相応しい」

胸の奥が冷たくなる。
でも、私は一歩も引かない。

「……あなたの思い通りにはならない。
 ディランも、私も」

「……残念だよ」

ジョルジュ陛下が、愉しげに言う。

「何も知らなければ、
 こんな怖い思いをせずに済んだものを」

「……うるさい」

震えた声だった。
でも、逃げる震えじゃない。

「大丈夫だ。
 まだ、殺しはしない」

陛下は、私を値踏みするように見下ろした。

「だが……これは、もらっておこう」

合図もなく、剣が伸びた。

押さえつけられ、身動きが取れない。
仲間たちが剣を構えようとするが、
すぐに部隊に取り押さえられる。

次の瞬間――

バサッ。

軽い音とともに、何かが落ちた。

はらはらと、床に散るのは、
スミレと桃色の髪。

切られたと理解した瞬間、
胸の奥が、ひどく冷えた。

それでも私は、顔を上げ笑って見せる。

「……それで、満足?」