第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

その言葉に、
オーウェン団長がゆっくりと剣を構えた。

苦しそうに目を伏せる。

「私は……なんと愚かなことを」

ずっと信じていた。
ディランを守っていると。

けれど実際は、
ジョルジュ陛下に利用されていただけだった。

オーウェン団長は、
覚悟を決めたように顔を上げる。

そして静かに呟いた。

「不動の意志よ――我が力となれ。オニキス」

黒い魔宝石が淡く輝き、剣を黒く染め上げる。

空気が重く張りつめる。

「……ほう」

ジョルジュ陛下が目を細めた。

次の瞬間、
陛下の騎士たちが一斉に襲いかかる。

鋭い剣が次々と振るわれるが、
オーウェン団長は冷静に受け流していく。

剣を弾き、
かわし、
素早く反撃する。

迷いのない動きだった。

「すごい……」

思わず声が漏れる。

さすが王国騎士団団長。

その実力は圧倒的だった。

けれど――

一瞬だけ。

騎士の剣先が、
オーウェン団長の腕をかすめた。

赤い傷が浅く走る。

「オーウェン団長!」

私は思わず声を上げる。

だが本人は、
気にした様子もなく言った。

「この程度……
大した怪我では――」

その瞬間だった。

ぐらり、と。

オーウェン団長の身体が大きく揺れる。

「っ……!?」

膝が崩れ、
剣が床に落ちた。

ガラン、と重い音が響く。

「まさか……」

嫌な予感が胸をよぎる。

「毒ですか!?」

私が叫んだ瞬間、
後ろから強く腕を掴まれた。

「っ!」

動きを封じられる。

ジョルジュ陛下が、
愉快そうに笑った。

「毒ではないよ」

ゆっくりとした声が響く。

「しびれ薬だ。
オーウェンの実力は把握している。
これくらい使わないとな」

オーウェン団長は、
なんとか立ち上がろうとしている。

けれど、
身体がうまく動かない。

指先がかすかに震えるだけだ。

「強力な薬だ。
もう声も満足に出せないだろう」

「……じょ、……」

掠れた声が漏れる。

悔しそうに、
オーウェン団長が床を睨む。

それでも身体は動かず、
ついにそのまま倒れ込んだ。