第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

私はセナの笑顔につられて、思わず笑ってしまった。

「さすが氷の騎士様だね」

「なんですか、それ?」

セナが怪訝そうに眉を寄せる。

「王妃教育で仲良くなった令嬢が言ってたよ。セナは他の令嬢たちからそう呼ばれてるって」

「知りませんでした」

淡々と返すけれど、ほんの少しだけ耳が赤い。

「モテモテだね〜」

からかうように笑うと、セナは一瞬だけ目をそらした。

その仕草が、なんだか可愛くて――
胸の奥が、ほんのりあたたかくなる。


「でも、ミラがね。氷の騎士様はいつもクールで表情が変わらないって言ってたの」

「そうですか」

セナは淡々としているけれど、どこか気まずそう。

「セナ、けっこう顔に出るのにね」

「……」

「ほら、また黙る。図星でしょ?」

「それは――お嬢様の前だけです」

セナが、少し照れたように視線をそらす。

「そうなの? なんか特別な感じだね〜」

「そうですよ」

今度は逆に、ぐっと一歩近づいてくる。
マフラー越しに、セナの体温がふわっと伝わる。

「お嬢様は、ずっと俺の特別で――」

一瞬、胸が跳ねる。

「手がかかる護衛対象です」

「なにそれ! ひどいなぁ!」

思わず抗議すると、セナは堪えきれないように笑った。

私もつられて笑ってしまう。

冬の冷たい空気の中で、二人の笑い声だけがあたたかく響いた。