いいこになりました

「……”いいこになるノート”」
鞄から落ちたノートに書かれる噂通りの表紙を見て、私は唾をのんだ。
一時間目、直前。授業用のタブレットを家に忘れたことに気付き、まさに怒られたくなくて困っていたからだ。
迷わず表紙に名前を書いて、中をのぞいてみる、と。
「”大きい声で謝ろう”……?」
予想外の内容に首をかしげた。どういうことだろう。
考えていたら、授業開始のチャイムが鳴った。
先生の号令が響く。
「じゃあ皆、タブレット開いて」
……い、言わなきゃ……。ゆっくり手を挙げて、声をしぼり出す。
「あの……今日タブレットを忘れました、すみま──」
謝りかけて、ふと、さっきの文字を思い出した。
「──ごめんなさい!明日から気を付けます!!」
こういうことで、いいのかな。
必死にハキハキ伝えてみたら、先生は一瞬目を大きく開いてから、
「……そんなに反省しているならいい。今日はプリントで進めなさい」
そう、小さくため息だけついた。
「(ほ、本当に怒られなかった……!)」

──それから私は、あのノートに頼るようになった。
”怒らず、優しくいよう”と書かれたら、隣の席の子にからかわれても怒らなかった。
”悲しまず、ずっと笑顔でいよう”と言われたら、転んで骨折をしても笑っていた。
「ハルちゃん、最近なんか変だよ……」
そんな友達の言葉にも、傷つかない。
「ハル、実はね。お母さん達、離婚する事になったの」
家族のそんな話にも、笑顔をくずさない。
「……なあ、ハル。どうしてずっと笑ってるんだ。お父さんともう会えないんだぞ?」
お父さんが尋ねてきた。でも何も感じず、空っぽの心を、空気が通り抜けていきます。
「待ってハル、あなたそれ……ゴミ箱に入ってる人形、お父さんにもらった宝物って言ってなかった……?」
お母さんが顔を青ざめさせました。
一体なぜでしょう。私はノートの言う通りにしただけです。

「使わないものは取っておかず、すぐ捨てます。私は"いいこ"です」