切れる息を整えるまもなく、川辺に腰かている彼が私を振り返った。
辺りは薄暗い。
ぼんやり見える彼の顔が、今さらだけどあの頃の女の子と重なった。
面影がある。
そう思う私はおかしいだろうか。
確かに本人なんだけど、真実を知るまでは一致しなかったというのに...。
「そんなに走らなくても、まだホタルが光るには時間があるぞ」
黒崎くんの声は相変わらず優しい。
「黒崎くん...あの…今さらかもしれないけど、その...」
「なに?今さら思い出したって?」
私はえ?と眉をあげる。
座っていた黒崎くんはゆっくり立ち上がり、お尻についた湿った土を払っていた。
「小さい頃に会った女の子。俺だって気づいたんだろ?」
どうしてそれを……。
「あの時は母さんに女っぽい髪型にされてただけで、俺はれっきとした男だからな」
少しだけ笑顔になれる。
私の微笑みを見て、黒崎くんが安心したように口角を上げた。
「改めて、久しぶり」
と、黒崎くんが右手を差し出す。
私も、ゆっくりと彼の右手に自分の手を重ねて握手をする。
彼の微笑みと共に、私の目の前を淡い光が横切った。
ひとつ。
またひとつ……。
まるで夜空から星がこぼれ落ちてきたみたいに、淡い黄緑色の光がゆっくりと浮かび上がる。
ホタルだ。
小さくて儚くて。
だけど、自分を主張して光っている。
近づくと脆くて壊れてしまいそうなのに、とても美しい光。
「多分もう、俺だったってことに気づかないんだろうなって思ってた」



