蛍が消える、その夜に


お母さんの住んでいた田舎は、鹿児島県だった。

それも、市内から車で1時間半ほどのところにある超ど田舎。

高層ビルなんてあるわけもなく、田んぼと畑、そして山に囲まれ、よく言えば、大自然の中、なんのストレスもなく過ごせそうな場所。
だけど、本当に何もない町だった。

東京と違って遠くまで見渡せるし、一車線の道路なんて殆ど車も通っていない。

引っ越してきた日なんて、お昼過ぎだと言うのに、住宅街に着くまで人っ子一人見なかった。

東京とはあまりにも違う環境に戸惑いはしたものの、これで息の詰まる生活とはおさらばなんだと思うと、少しだけ笑えそうな気がしてきた。

「はぁ……。行かないといけないんだよね?」

新しい中学への、初登校日。

重たい足取りで通学路を歩み進めてきたけれど……。

学校へと続く最後の上り坂で一旦立ち止まり、豪快にため息をついた。

この坂を上りきれば、楽しくもない学校生活が、また待っている。

引っ越しをしたからって、学校から逃げられるわけではない。

唯一の救いは、私を知っている人が、ひとりもいないということ。

目立つことなく静かに過ごしていれば、誰の目にもとめられないはずだ。

友達なんていらない。必要ない。

朝登校して、自分の席に座って、昼食時間には誰もいない階段や空き教室を見つけて食べて、学校が終わればそそくさと家に帰る。

次の日も全く同じ。

そうやって、何事もなく、卒業を迎えたい。