蛍の季節に、キミはまた会いに来る

思わず、勢いよく振り返る。

あまりにも自然に、名前を呼ばれたから。

「お、振り返った」

隣の瀬戸くんが驚くほど、大きな動きだったらしい。

そんなこと、どうでもいい。

視線は、後ろの彼に釘づけだった。

「俺、親から頼まれてることがあってさ」

「え……なに?」

かすれた声が出る。

喉が、ひどく乾いていた。

「まぁ、そのうち分かるだろ」

それだけ言って、黒崎は視線を外した。

——なに、それ。

意味が分からない。

親?
頼まれてること?

どうして、そんな話を私にするの。

もしかして——
本当に、私のことを知っているの?

胸の奥が、ざわつく。

聞きたいのに、聞けない。

黒崎くんはそれ以上、何も言わなかった。

まるで、最初から何もなかったみたいに。

それ以降、私と彼の間に、特別な会話は一度もなかった。

静かなままの学校生活。
それは、望んでいたはずなのに——

あの言葉だけが、ずっと引っかかっている。

——「親から頼まれてることがある」

別に、深い意味なんてない。

そう思おうとするのに。

どうしても、離れてくれなかった。