蛍の季節に、キミはまた会いに来る


翌日、学校の正門に着くと、門の前に黒崎くんは立っていた。

片手にはノートを持ち、生徒の群れから私を見つけて笑顔で手をあげる。

黒崎くんの姿は周りの人には見えていない。

黒崎くんの身体をすり抜けて校内に入っていく人もいた。

学校に黒崎くんがいる。

涙が滲んで鼻の奥がつんと痛くなるのを我慢して、黒崎くんの元へ小走りした。

「おはよ」

私が挨拶すると、黒崎くんは焦ったように周りを見渡し、シーっと鼻に人差し指を当てた。

『みんなには俺の姿が見えてないんだから、うやむやに話しかけると変に思われるって』

そう言えば、私に聞こえている黒崎くんのこの声って、一体どういう現象なんだろう。

みんなには見えていなければ、聞こえてもいないはずだ。

姿が見ている人にだけ、聞こえるようになっているのかな?

私たちはふたり並んで校内に入る。

靴箱で上履きに履き替えて彼をふと見ると、自分の靴箱の前で唇を噛んでいた。

『俺の靴箱……まだ残ってんだ』

上履きも、当時のまま。

3年になった私は靴箱の位置が変わったけど、黒崎くんの靴箱はまだ2年生のままだ。

私と、真衣と、瀬戸くんで先生に頭を下げてお願いをしたの。

黒崎くんの靴箱やロッカー、使っていたものは処分をしないでそのままにしていて欲しいと。

先生は次に入ってくる生徒がいるから、そのままにしておくのは難しいと言っていた。

けれど、少子化のせいで今年の生徒の数が減少したおかげで、黒崎くんの場所はそのまま残せることになったんだ。