蛍の季節に、キミはまた会いに来る

こんなに早く現れるなんて。

さっき廊下で会っていなければ、ここまで不安になることもなかったのに。

——名前さえ呼ばれなければ。

こんな恐怖、感じずに済んだのに。

黒崎達也。

さっき先生が呼んだ苗字と、今の呼び声で、自然と頭に浮かぶ。

それが、“彼”の名前。

「なぁなぁ達也。この子、転校生の古川さん! 転校生とか久しぶりでテンション上がるよな」

瀬戸くんが、さっきの調子で騒ぐ。

……もう、やめて。

私のことは放っておいて。

「どうでもいい」

背後から、短く落ちた声。

思わず、胸の奥の力が抜けた。

——よかった。

無関心でいてくれる。

それだけでいい。

やっぱり、さっきのはただの口実だったんだ。

ホームルームを抜けるための、適当な嘘。

“知り合いだから紹介はいらない”なんて、そんな理由で。

「なんでそんな冷たいんだよ。知らない土地に来たんだから、少しくらい気遣ってやれよ。なぁ、古川さん」

急に話を振られて、言葉が詰まる。

「え……あ、私は、その……大丈夫です」

ぎこちなく答える。

波風を立てないように。

それだけを考えて。

——お願いだから、もう放っておいて。

「ああそうだ、古川」

そのとき。

背後から、また声が落ちてきた。