蛍が消える、その夜に


こんなに早く現れるなんて。

さっき廊下で会ったりしなければ、こんなに不安な気持ちになることはなかったのに。

せめて、私の名前を呼んだりされなければ、こんな恐怖、感じなくて済んだのに……。

黒崎達也。

さっき先生が呼んでいた苗字と、今彼が呼んだ名前で“彼”のフルネームがわかった。

瀬戸くんは私の隣の席に戻ってきて、テンション高めにドカッと席についてまた話し始める。

「なぁなぁ達也。この子、転校生の古川さん! 転校生とか超久しぶりでテンション上がるよな」

あ〜もう、また……。

私の話はいいから、もうどこかに行ってよ。

「どうでもいいよ別に」

後ろの彼の言葉に私は胸を撫でおろした。

無関心でいてくれてありがとう。とさえ思える。

やっぱりさっき廊下で私の名前を呼んだのは、ホームルームをサボるため。

“知り合い”だからと嘘をついて、自己紹介を聞く必要がないと先生に言って。

まぁそう言ったからってサボることは許されないのだけど、“彼”だから特別なのだろう。

「なんでそんな冷たいんだよ。知らない土地に引っ越してきたんだから少しは気遣ってやれよ。なぁ、古川さん」

「え……あ、私は、別に、その、気にしてないので……」

無言ばかり貫くのは逆に悪い噂が立つと思い、角を立てずに返した。

お構いなくと、心の中で付け加えて。

「ああそうだ、古川」