「……達也」
「………」
「マジで返事しないのかよ」
「………」
「お前、聖菜ちゃんをひとりにしてどうすんだよ」
クッ……と、瀬戸くんが唇を強く噛み締める。
「お前、まだまだこれからなのに、何してんだよ!」
「……瀬戸くんも、もう、やめなって」
真衣が大粒の涙を流しながら、瀬戸くんの手も、棺から引き剥がした。
「達也の……バカやろう」
力のない瀬戸くんの声。
その声は廊下に落ちて、拾われることはなかった。
「お時間です」
棺の蓋が閉められ、重たい金属の扉が開く。
「待って……っ!」
私の声に、火葬場に来ていたみんなが棺を追うように前にきた。
でも、扉の中に進む棺は止まることはない。
黒崎くんのお母さんも黒崎くんと一緒に扉に入っていきそうだったけど、豊田さんに止められ、その場で大きな声で泣いていた。
そしてーー。
ゴォン。
重い音を立てて、扉が閉まった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
私の声が、分厚い扉に跳ね返って私のもとに戻ってくる。
「黒崎くん!!!」
どんなに大声で叫んでも、中から返事が返ってくることはなかった。
窓の外ではまだ雨が降り続いている。
けれどしばらくして、ガラスを叩く音がふっと弱くなった。
フラフラと外に出ると、空に向かって灰色の煙が伸びている。
行っちゃった……。
黒崎くんが雲の向こうに行っちゃった。
本当にもう、どこにも黒崎くんの姿がない。
温もりがない。
『古川』って、私の名前を呼んでくれることはない。
『かっこいいだろ』って、冗談で笑うこともない。
戻ってくることは、もう、2度とないんだ……。



