白い菊の香りが、まだ制服に残っている。
空は薄く曇っていた。
夏が近いはずなのに空気は少し涼しく感じて、頬に触れる風がやけに寂しい。
さっきまで葬儀場にいたはずなのに、気づけば私は灰色の建物の前に立っていた。
――火葬場。
その文字を見た瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられる。
担任の先生に連れられて、私たち数人のクラスメイトも火葬場まで来ていた。
誰もほとんど話さない。
地球上から誰もいなくなったみたいに、静かで空気さえも動いていないようだった。
「これで……最後のお別れになります」
職員の人の静かな声が広い廊下に響いた。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。
外では強い風が吹いているのか、窓の向こうの木の枝が大きく揺れている。
……最後。
その言葉を頭が理解する前に、棺がゆっくりと前に運ばれていく。
ガラガラ、と車輪の音。
その音がどうしてこんなに大きく聞こえるんだろう。
窓の外は暗く、いつの間にか雨が降り始めていた。
細い雨粒が静かにガラスを叩いている。
色とりどりの花に囲まれた棺の中で、彼は眠っている。
まるで、いつもの昼寝のように。
それなのに……。
もう2度と、目を開けないんなんて。
「……嘘だよ」



