白ねこのココと、あまい森のひみつ

御用達の称号を得て、もふもふカフェはますます繁盛した。
注文が殺到し、弟子たちは嬉しい悲鳴を上げている。
「師匠、もっと人手が必要かもしれません」
グレンが提案する。
「そうね。もう二、三人、雇いましょうか」
順調な日々。しかし、その裏で暗い影が動いていた。
「ココ様、大変です!」
ある朝、店に来ると、メイが慌てた様子で報告してきた。
「材料庫が荒らされています!」
駆けつけると、確かに材料庫はめちゃくちゃだった。小麦粉は撒き散らされ、砂糖は水浸し。使い物にならない。
「誰がこんなことを……」
窓が割られており、そこから侵入したらしい。
「衛兵に通報しましょう」
エリザベート嬢が言う。
調査の結果、犯人は見つからなかった。しかし、一週間後、また同じことが起きた。
「これは嫌がらせね」
エリザベート嬢が断言する。
「誰かが、あなたの店を潰そうとしている」
「でも、誰が……」
心当たりは一つしかない。アラン。
しかし、証拠はない。
三度目の事件が起きた時、私は決意した。
「今夜、張り込みをします」
「危ないわよ、ココ」
「でも、犯人を捕まえないと、これが続きます」
夜、店に隠れて待機する。
真夜中過ぎ、物音がした。
窓から人影が侵入してくる。
「そこまでよ!」
灯りをつける。
しかし、そこにいたのはアランではなく、見知らぬ男だった。
「誰だ、お前は!」
男は慌てて逃げようとする。
「待ちなさい!」
追いかけようとしたその時、別の人影が現れた。
「やめなさい」
その声は、アランだった。
「アランさん!?」
「この男は、俺が雇った探偵です」
「探偵?」
「実は、俺の店も同じような被害に遭っていたのです。材料が盗まれたり、嫌がらせを受けたり」
意外な事実だった。
「犯人を探すために、探偵を雇って調査していました。そして、今夜、ついに……」
アランが指差す先に、もう一人の人影があった。
それは、王城の騎士団長、ダリウスだった。
「ダリウス卿!」
「認めよう」
ダリウスは、観念したように話し始めた。
「俺がお前たちの店を狙った。お菓子などという軟弱なものが流行るのが許せなかった」
「なぜそこまで……」
「戦士は強くあるべきだ。甘いものに溺れ、心が弱くなることを、俺は恐れていた」
彼の言葉には、ある種の信念があった。間違っているが、本気だった。
「ダリウス卿、お菓子は人を弱くしません」
私が言う。
「むしろ、疲れた心を癒し、明日への力を与えてくれます。戦う人にこそ、必要なものです」
「戯言を!」
「戯言ではありません。試してみてください」
私はポケットから、小さなクッキーを取り出した。
「これを食べて、それでもお菓子が不要だと思うなら、店を閉めます」
ダリウスは躊躇した。しかし、最終的にクッキーを受け取り、口に運んだ。
その瞬間、彼の表情が変わった。
「これは……」
「美味しいでしょう?」
「……認めたくはないが、確かに、心が軽くなる」
彼は複雑な表情で私を見た。
「……俺の考えは、間違っていたのか」
「間違っていたというより、視野が狭かったのです。強さには、色々な形がある」

「……一つ、言っておく」
 店を出る前、アランが足を止めた。
「お前を疑わせるような空気を作ったのは、
 俺の態度のせいでもある」
 視線を合わせないまま、続ける。
「だが……嫌がらせの件は、俺も被害者だった」
 短く、息を吐いた。
「それだけは、信じてくれ」
 
 その言葉が嘘でないことは、
 彼の表情を見れば、十分に伝わってきた。

 その後、ダリウスは、そのまま衛兵に連行された。

騎士団長という立場でありながら、
民間人の店に対する破壊工作を指示した罪は重い。

後日、正式な裁定が下された。

爵位は剥奪こそ免れたものの、
騎士団長の職は解かれ、謹慎と減俸、
そして王都での一定期間の公的奉仕が命じられた。

「当然の処分ね」

エリザベート嬢は、そう言って静かに頷いた。


それからしばらくして。

朝の仕込みをしていると、
見慣れた鎧姿が、店の前で立ち止まっているのが見えた。
……いや、正確には“元”騎士団長だ。
「入っても、よいだろうか」
以前の威圧感はなく、
どこか居心地の悪そうな顔をしている。
「どうぞ」
彼は無言で席に座り、
おすすめされたクッキーを一枚、口に運んだ。
「……甘すぎる」
そう言ってから、一拍置いて続ける。
「だが……悪くない」
それが、彼の初めての来店だった。
そして、最後でもなかった。

その後、彼はもふもふカフェの常連客になった。
「甘すぎるのは駄目だが、適度な甘さなら悪くない」
そうして、彼なりの妥協点を見つけたらしい。
この事件をきっかけに、アランとの関係も改善した。
「ココ、認めよう」
彼が店を訪ねてきた。
「あなたのお菓子には、俺にないものがある。技術だけでなく、心が込められている」
「アランさんのお菓子も素晴らしいです。伝統と技術の結晶」
お互いの良さを認め合う。
「一緒に、お菓子文化を広めませんか」
私が提案する。
「……いいだろう。ライバルとしてではなく、同志として」
こうして、二つの店は協力関係を築くことになった。