南の大陸への旅立ちを前に、私はもう一度、王都に戻った。
旅立ちの前に、どうしても伝えておきたいことがあった。
もふもふカフェの厨房に弟子たちを集める。リリア、グレン、ノエルの三人。
入学当初は何もできなかった三人が、今では立派なお菓子職人になっていた。
「改めて、今日はちゃんと話がしたくて集まってもらいました」
三人が姿勢を正す。
「私、南の大陸へ旅に出ます。どのくらいかかるかは、まだわからない。半年かもしれないし、数年になるかもしれない」
「知ってます」とリリアが言う。
「師匠がそわそわしてるの、ずっと気づいてました」
「気づいてたの?」
「当然です。ずっと一緒にいましたから」
グレンも頷く。
「俺たちのことは、心配しなくていいですよ。ちゃんとやれます」
ノエルが微笑む。
「師匠から教わったことは、全部、覚えています」
胸が熱くなった。
「正式に言います。今日から、三人は正式に独立したお菓子職人です。もふもふカフェは、三人に任せます」
「師匠……」
「リリア、あなたはデコレーションの才能が突出している。あなたにしか作れないケーキを、これからも追求してください」
「はい!」
「グレン、あなたの力強い仕事は、大量生産が必要な場面でこそ輝く。でも、一つ一つへの愛情は忘れないでください」
「わかりました」
「ノエル、魔法とお菓子の融合は、あなたが世界で一番進んでいる。その研究を、学院で未来の職人たちに伝えてください」
「必ず」
三人が一斉に頭を下げた。
「師匠、ありがとうございました。本当に、ありがとうございました」
こちらこそ、ありがとう。
あなたたちに出会えたから、私はここまで来られた。
その夜、店の二階で最後の食事をした。
私が作った料理ではなく、リリアが腕を振るった。
「師匠に最後の一品を作らせてください」
運ばれてきたのは、見慣れない形のケーキだった。
四層になっていて、それぞれの層に違う色が使われている。
「下の層は師匠が最初に教えてくれたクッキーの味、二層目は師匠と初めて作ったタルト、三層目は旅から持ち帰った月光の果実の味、そして一番上は……」
リリアが照れながら続ける。
「私が考えた、新しい味です。師匠から受け継いだ技術と、私自身のアイデアを合わせた」
「食べていいですか?」
「もちろん」
一口食べた瞬間、涙が出た。
美味しかった。
本当に美味しかった。
「リリア、これ……」
「どうですか?」
「完璧です。私より上手いかもしれない」
「そんなことないです!」
でも、本当だった。
リリアは、私の技術を受け継ぎ、さらにそれを超えようとしていた。
「よかった。あなたたちに伝えられた」
「師匠が教えてくれたから、私たちは今があります」
「あなたたちが頑張ったから、今があるの。それを忘れないで」
翌朝、早朝の旅立ちだった。
三人が見送りに来てくれた。
エリザベート嬢と王女も来てくれていた。
「ココ、また旅に出るのね」
エリザベート嬢が苦笑する。
「あなたって、本当に落ち着きがないのね」
「褒め言葉として受け取ります」
「もちろんそのつもりよ。行ってらっしゃい。でも、ちゃんと帰ってくること」
「はい」
王女が、小さな包みを差し出した。
「旅のお守りよ。ココが私を救ってくれた時に使った月光の果実の種。南の大陸で育つかもしれない」
「ありがとうございます、殿下」
「あなたが行くと、世界が変わる。それが好きよ、私」
「いってらっしゃいませ、師匠」
三人が一斉に頭を下げた。
「必ず帰ってきてください」
「待ってます」
「ただいまって帰ります。絶対に」
馬車が動き出す。
窓から手を振ると、三人も手を振り返す。
エリザベート嬢と王女も振り返してくれる。
その姿が小さくなっていく。
「いい仲間たちだな」
レイが言う。
「ええ。自慢の仲間たちです」
新しい道が、前に続いている。
旅立ちの前に、どうしても伝えておきたいことがあった。
もふもふカフェの厨房に弟子たちを集める。リリア、グレン、ノエルの三人。
入学当初は何もできなかった三人が、今では立派なお菓子職人になっていた。
「改めて、今日はちゃんと話がしたくて集まってもらいました」
三人が姿勢を正す。
「私、南の大陸へ旅に出ます。どのくらいかかるかは、まだわからない。半年かもしれないし、数年になるかもしれない」
「知ってます」とリリアが言う。
「師匠がそわそわしてるの、ずっと気づいてました」
「気づいてたの?」
「当然です。ずっと一緒にいましたから」
グレンも頷く。
「俺たちのことは、心配しなくていいですよ。ちゃんとやれます」
ノエルが微笑む。
「師匠から教わったことは、全部、覚えています」
胸が熱くなった。
「正式に言います。今日から、三人は正式に独立したお菓子職人です。もふもふカフェは、三人に任せます」
「師匠……」
「リリア、あなたはデコレーションの才能が突出している。あなたにしか作れないケーキを、これからも追求してください」
「はい!」
「グレン、あなたの力強い仕事は、大量生産が必要な場面でこそ輝く。でも、一つ一つへの愛情は忘れないでください」
「わかりました」
「ノエル、魔法とお菓子の融合は、あなたが世界で一番進んでいる。その研究を、学院で未来の職人たちに伝えてください」
「必ず」
三人が一斉に頭を下げた。
「師匠、ありがとうございました。本当に、ありがとうございました」
こちらこそ、ありがとう。
あなたたちに出会えたから、私はここまで来られた。
その夜、店の二階で最後の食事をした。
私が作った料理ではなく、リリアが腕を振るった。
「師匠に最後の一品を作らせてください」
運ばれてきたのは、見慣れない形のケーキだった。
四層になっていて、それぞれの層に違う色が使われている。
「下の層は師匠が最初に教えてくれたクッキーの味、二層目は師匠と初めて作ったタルト、三層目は旅から持ち帰った月光の果実の味、そして一番上は……」
リリアが照れながら続ける。
「私が考えた、新しい味です。師匠から受け継いだ技術と、私自身のアイデアを合わせた」
「食べていいですか?」
「もちろん」
一口食べた瞬間、涙が出た。
美味しかった。
本当に美味しかった。
「リリア、これ……」
「どうですか?」
「完璧です。私より上手いかもしれない」
「そんなことないです!」
でも、本当だった。
リリアは、私の技術を受け継ぎ、さらにそれを超えようとしていた。
「よかった。あなたたちに伝えられた」
「師匠が教えてくれたから、私たちは今があります」
「あなたたちが頑張ったから、今があるの。それを忘れないで」
翌朝、早朝の旅立ちだった。
三人が見送りに来てくれた。
エリザベート嬢と王女も来てくれていた。
「ココ、また旅に出るのね」
エリザベート嬢が苦笑する。
「あなたって、本当に落ち着きがないのね」
「褒め言葉として受け取ります」
「もちろんそのつもりよ。行ってらっしゃい。でも、ちゃんと帰ってくること」
「はい」
王女が、小さな包みを差し出した。
「旅のお守りよ。ココが私を救ってくれた時に使った月光の果実の種。南の大陸で育つかもしれない」
「ありがとうございます、殿下」
「あなたが行くと、世界が変わる。それが好きよ、私」
「いってらっしゃいませ、師匠」
三人が一斉に頭を下げた。
「必ず帰ってきてください」
「待ってます」
「ただいまって帰ります。絶対に」
馬車が動き出す。
窓から手を振ると、三人も手を振り返す。
エリザベート嬢と王女も振り返してくれる。
その姿が小さくなっていく。
「いい仲間たちだな」
レイが言う。
「ええ。自慢の仲間たちです」
新しい道が、前に続いている。



