東の大陸に上陸すると、そこはこれまで訪れたどの国とも全く異なる世界だった。
建物は木と紙でできており、屋根が反り返っている。人々は着物に似た衣装を身につけ、言葉も聞いたことがないものだった。
「どこかで聞いたことがある気がする……」
私の前世の記憶が揺れた。
これは日本の建築様式に似ている。いや、正確には日本とは違うが、どこか通じるものがある。
「ここは?」
通りかかった人に声をかけようとすると、相手が驚いた顔をして後ずさった。
「あ、ごめんなさい、怖がらせて……」
そこへ、一人の若い女性が近づいてきた。桜色の着物、黒い長髪、穏やかな目。
「旅の方ですか。ここは、サクラノクニのミハラという港町です」
不思議なことに、言葉が通じた。
「あなた、この国の言葉を話せるんですか?」
私は一瞬だけ考えてから、首を振る。
「正確には……最初から、聞き取れてはいたみたいです。ただ――」
少し言葉を選ぶ。
「最近になって、意味や仕組みが、はっきり理解できるようになっただけで」
「へえ」
レイが、感心したように息を漏らす。
「なんだか、便利な体質だな」
「あなたは?」
「私はハナと申します。この町で、和菓子……いえ、餡菓子の店を営んでおります」
「和菓子……!」
思わず興奮した声が出る。
前世の記憶で知っている、あの和菓子に似たものが、この世界にも存在するのか。
「見せてもらえますか?」
ハナに案内されて、小さな店に入る。
そこには、美しい菓子が並んでいた。
練り切り、羊羹、大福、どら焼き……と全く同じではないが、非常によく似た菓子たちが、芸術品のように飾られている。
「綺麗……」
「ありがとうございます。でも、最近は売れなくて困っているんです」
「なぜですか?」
「新しいお菓子が入ってきまして。どこかの国から伝わった、焼き菓子というものです。若い人たちは、みんなそちらに流れてしまって」
悲しそうな顔のハナを見て、私は考えた。
「焼き菓子は私が広めたものかもしれません。でも、あなたの餡菓子も、素晴らしい文化です。どちらかが優れているわけじゃない」
「そう言っていただけると、嬉しいですが……」
「一緒に、新しいお菓子を作りましょう。東西の技術を合わせた、この世界にしかないお菓子を」
ハナは目を輝かせた。
「本当ですか?」
「ぜひ」
こうして、私とハナの共同研究が始まった。
ハナは餡の使い手として卓越した技術を持っていた。豆を煮て、丁寧に裏ごしして作る餡は、滑らかで繊細な甘さだった。
「この技術、本当に素晴らしい」
「ありがとうございます。師匠から受け継いだものです」
「お菓子には、その国の文化が詰まっているんですね」
「そう思います。私たちの餡菓子は、四季を表現します。春は桜、夏は緑、秋は紅葉、冬は雪」
私は感動した。
それは、私がこれまで意識していなかった視点だった。
「お菓子は、自然を映す鏡でもあるんですね」
「はい。食べる人に、季節を感じてほしいのです」
一週間後、最初のコラボレーション菓子が完成した。
名前は「東西夢の菓子」。
外側は焼き菓子の技術で作ったサクサクの生地、内側にはハナの餡をたっぷり包んだもの。さらに、お菓子魔法で彩りを加え、見た目も美しく仕上げた。
「食べてみてください」
店先で試食を配ると、反響は予想以上だった。
「こんな菓子、今まで食べたことない!」
「サクサクとしっとりが一緒になってる!」
「綺麗! 食べるのがもったいないくらい」
特に若い人たちの評判が良く、ハナの店に再び行列ができるようになった。
「ココさん、本当にありがとうございます」
「ハナさんの技術があったからこそです」
レイが横で笑っている。
「二人とも、いい仕事したな」
この国での滞在中、私はサクラノクニの食文化をさらに学んだ。
季節ごとに菓子を変えるという発想、自然の形を菓子に取り入れる美意識、そして、菓子に込める心の深さ。
「私のお菓子魔法は、まだまだ未完成だった」
気づきを得るたびに、私のお菓子は進化していく。
サクラノクニに二ヶ月滞在した後、私たちは次の目的地へ向かうことにした。
「ハナさん、またいつか来ます」
「待っています。今度は、春の桜の季節に来てください」
「はい、必ず」
建物は木と紙でできており、屋根が反り返っている。人々は着物に似た衣装を身につけ、言葉も聞いたことがないものだった。
「どこかで聞いたことがある気がする……」
私の前世の記憶が揺れた。
これは日本の建築様式に似ている。いや、正確には日本とは違うが、どこか通じるものがある。
「ここは?」
通りかかった人に声をかけようとすると、相手が驚いた顔をして後ずさった。
「あ、ごめんなさい、怖がらせて……」
そこへ、一人の若い女性が近づいてきた。桜色の着物、黒い長髪、穏やかな目。
「旅の方ですか。ここは、サクラノクニのミハラという港町です」
不思議なことに、言葉が通じた。
「あなた、この国の言葉を話せるんですか?」
私は一瞬だけ考えてから、首を振る。
「正確には……最初から、聞き取れてはいたみたいです。ただ――」
少し言葉を選ぶ。
「最近になって、意味や仕組みが、はっきり理解できるようになっただけで」
「へえ」
レイが、感心したように息を漏らす。
「なんだか、便利な体質だな」
「あなたは?」
「私はハナと申します。この町で、和菓子……いえ、餡菓子の店を営んでおります」
「和菓子……!」
思わず興奮した声が出る。
前世の記憶で知っている、あの和菓子に似たものが、この世界にも存在するのか。
「見せてもらえますか?」
ハナに案内されて、小さな店に入る。
そこには、美しい菓子が並んでいた。
練り切り、羊羹、大福、どら焼き……と全く同じではないが、非常によく似た菓子たちが、芸術品のように飾られている。
「綺麗……」
「ありがとうございます。でも、最近は売れなくて困っているんです」
「なぜですか?」
「新しいお菓子が入ってきまして。どこかの国から伝わった、焼き菓子というものです。若い人たちは、みんなそちらに流れてしまって」
悲しそうな顔のハナを見て、私は考えた。
「焼き菓子は私が広めたものかもしれません。でも、あなたの餡菓子も、素晴らしい文化です。どちらかが優れているわけじゃない」
「そう言っていただけると、嬉しいですが……」
「一緒に、新しいお菓子を作りましょう。東西の技術を合わせた、この世界にしかないお菓子を」
ハナは目を輝かせた。
「本当ですか?」
「ぜひ」
こうして、私とハナの共同研究が始まった。
ハナは餡の使い手として卓越した技術を持っていた。豆を煮て、丁寧に裏ごしして作る餡は、滑らかで繊細な甘さだった。
「この技術、本当に素晴らしい」
「ありがとうございます。師匠から受け継いだものです」
「お菓子には、その国の文化が詰まっているんですね」
「そう思います。私たちの餡菓子は、四季を表現します。春は桜、夏は緑、秋は紅葉、冬は雪」
私は感動した。
それは、私がこれまで意識していなかった視点だった。
「お菓子は、自然を映す鏡でもあるんですね」
「はい。食べる人に、季節を感じてほしいのです」
一週間後、最初のコラボレーション菓子が完成した。
名前は「東西夢の菓子」。
外側は焼き菓子の技術で作ったサクサクの生地、内側にはハナの餡をたっぷり包んだもの。さらに、お菓子魔法で彩りを加え、見た目も美しく仕上げた。
「食べてみてください」
店先で試食を配ると、反響は予想以上だった。
「こんな菓子、今まで食べたことない!」
「サクサクとしっとりが一緒になってる!」
「綺麗! 食べるのがもったいないくらい」
特に若い人たちの評判が良く、ハナの店に再び行列ができるようになった。
「ココさん、本当にありがとうございます」
「ハナさんの技術があったからこそです」
レイが横で笑っている。
「二人とも、いい仕事したな」
この国での滞在中、私はサクラノクニの食文化をさらに学んだ。
季節ごとに菓子を変えるという発想、自然の形を菓子に取り入れる美意識、そして、菓子に込める心の深さ。
「私のお菓子魔法は、まだまだ未完成だった」
気づきを得るたびに、私のお菓子は進化していく。
サクラノクニに二ヶ月滞在した後、私たちは次の目的地へ向かうことにした。
「ハナさん、またいつか来ます」
「待っています。今度は、春の桜の季節に来てください」
「はい、必ず」



