白ねこのココと、あまい森のひみつ

東の大陸へ行くには、海を渡らなければならない。
港町で、船を探す。
「東の大陸行きの船? あるにはあるが……」
船長が渋い顔をする。
「最近、海賊が出るんだ。危険だぞ」
「それでも行きたいんです

「お前たち、怖い物知らずだな」
船長は苦笑しながらも、最終的に首を縦に振った。
「わかった。特別に乗せてやる。ただし、何があっても自己責任だぞ」
「もちろんです。ありがとうございます」
「ただし、乗船料の代わりに、その噂のお菓子を船員分だけ作ってくれ。長旅で、甘いものに飢えていてな」
「喜んで」
翌朝、私たちは「蒼の風号」に乗り込んだ。
三本マストの大きな帆船。海風が心地よく吹いている。
「海、初めて見た」
レイが感慨深そうに言う。
「私も」
地平線まで続く青い海。圧倒的な広さに、胸が震えた。
出港してから三日間は、穏やかな航海だった。
私は毎日、船員たちにお菓子を作り続けた。
塩気がちな海の上で甘いお菓子は大好評で、荒くれ者の船員たちも笑顔になる。
「このクッキー、旨いな!」
「あんた、本当に魔法みたいだよ」
「魔法ですよ」
「そりゃあ、頼もしい」
船員たちと打ち解けていく。
しかし、四日目の夜、状況が一変した。
「船長! 前方に怪しい船影!」
見張りが叫ぶ。
暗闇の中に、灯りを消した黒い船が浮かんでいた。
「海賊だ! 全員、戦闘配置!」
「まずい……」
レイが剣に手をかける。
「ココ、後ろに下がってろ」
「でも……」
「お菓子で海賊は倒せない」
「倒せないかもしれないけど、何か役に立てるかもしれない」
海賊船が近づいてくる。
甲板に海賊たちが見える。刀や斧を持ち、凶暴な顔つき。
「積み荷を渡せ! さもなくば……」
「渡すものか!」
船長が怒鳴り返す。
戦闘が始まった。
矢が飛び交い、鉤爪付きのロープが蒼の風号に引っかかる。
海賊たちが乗り込んでくる。
「来るな!」
レイが果敢に応戦する。一人で三人の海賊を相手にしながら、私を守り続けた。
しかし、数が多すぎる。徐々に追い詰められていく。
「くそ、これは……」
私は考えた。何ができる?
眠りのクッキー。あれを大量に作れば……いや、時間がない。
爆裂クッキー。でも、船上では危険すぎる。
そこで、ひとつのアイデアが浮かんだ。
「迷彩クッキー!」
これは、食べた者に一時的な視覚混乱を与えるお菓子魔法だ。
急いで粉末状に砕き、風上から撒く。
甘い煙が海賊たちに降り注ぐ。
「な、何だこれは!?」
「見えない! 味方がどこにいるのか……!」
海賊たちが混乱し始めた。互いに仲間を攻撃し始める者まで出てきた。
その隙に、船員たちが反撃する。
「今だ!」
レイが叫び、剣を振るう。
海賊たちは混乱のまま、自分たちの船へ逃げ戻っていった。
「やった! 撃退した!」
船員たちが歓声を上げる。
「ココ、お前が助けてくれたんだな」
レイが息を切らしながら言う。
「一緒に戦いました」
「……そうだな」
彼は笑いながら、私の頭をぽんと叩いた。
「ありがとな」
心臓が跳ねる感覚を、私はもう隠そうとしなかった。
船長が深々と頭を下げた。
「お嬢さん、あんたのお菓子に救われた。本当にありがとう」
「お役に立てて、よかったです」
その後、航海は穏やかに続き、十日後、東の大陸が見えてきた。
「あれが……」
霧の中から、緑豊かな大陸が現れる。
「行こう」
レイが微笑む。
「ええ」
新たな大地へ、船が進んでいく。