白ねこのココと、あまい森のひみつ

 ベルグランドでの成功後、私はしばらく現地に滞在することにした。
 お菓子文化を根付かせるには、時間が必要だからだ。
 しかし、レイの警告通り、危険は迫っていた。
 ある夜、暗殺者が襲ってきた。
「死ね、魔女!」
 黒装束の男が、ナイフを振りかざす。
「きゃあ!」

 寸前で、レイが割って入った。
「させるか!」
 レイの剣が、暗殺者のナイフを弾く。
「レイさん!」
「逃げろ、ココ!」
 しかし、暗殺者は一人ではなかった。
 次々と、黒装束の男たちが現れる。
「囲まれた……」
「ちっ、厄介だな」
 レイが私を庇って立つ。
「お前ら、この女はオレが守る。手出しはさせない」
「邪魔をするな、盗賊」
「悪いが、この子に惚れちまったんでね」
 え?
 今、何て言った?
「冗談だろ、レイ」
「冗談じゃないさ。お前、可愛いし、料理上手だし、頑張り屋だし。惚れない方がおかしいだろ」
 こんな状況で、何を言っているのか。
 しかし、レイの剣は本気だった。
 暗殺者たちと激しく戦い、次々と撃退する。
「すごい……」
 レイの強さに驚く。
「元、王国騎士だからな」
「え?」
「昔の話さ。今は、しがない盗賊」
すべての暗殺者を倒し、レイは息を切らしていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、この程度なら平気だ」
しかし、彼の腕には深い傷があった。
「治療しないと!」
「いいって、放っておけば治る」
「駄目です。感染症になったらどうするんですか」
 私は、特製の治療用クッキーを作った。
「これを食べてください」
「お菓子で治るのか?」
「お菓子魔法ですから」
 レイが食べると、傷が見る見る回復していった。
「すげえ……本当に治った」
「よかった」
「ありがとな、ココ」
 彼は優しく笑った。
 その笑顔に、私の心臓が跳ねた。
 まさか、私……
「ココ、顔赤いぞ」
「な、何でもないです!」
 慌てて顔を背ける。
 しかし、心の中では認めざるを得なかった。
 私、レイのことが好きかもしれない。

 翌日、私たちは暗殺者の正体を調査した。
「過激派『純血の剣』だな」
 レイが言う。
「魔法を完全に排除しようとしている組織だ。危険な連中だ」
「どうすればいいでしょう」
「彼らのアジトを潰すしかない」
 レイの情報網で、アジトの場所を突き止める。
 街の地下にある、古い下水道だった。
「行きましょう」
「ああ、でも気をつけろ。罠があるかもしれない」
 慎重に下水道へ侵入する。
 薄暗く、湿った空気。遠くから、人の声が聞こえる。
「あそこね」
大きな部屋に、数十人の男たちが集まっていた。
「我らの目的は、魔法の根絶!」
リーダーらしき男が叫んでいる。
「ケットシーのココを始末すれば、魔法の脅威は消える!」
「おおお!」
 男たちが雄叫びを上げる。
「完全に狂ってるな」
レイが呟く。
「どうやって止めます?」
「直接対決は無理だ。数が多すぎる」
「なら……」
 私は、特製のお菓子を取り出した。
「眠りのクッキー。これを使えば……」
 換気口から、粉末状にしたクッキーを投入する。
 甘い香りが部屋に充満する。
「何だ、この匂いは……」
 男たちが次々と倒れていく。
「眠った……」
「今のうちに、証拠を集めよう」
 部屋の中から、計画書や名簿を押収する。
 これを王宮に提出すれば、組織は壊滅するはずだ。
 しかし、リーダーだけは眠っていなかった。
「貴様ら!」
 彼は、鼻にマスクをしていた。
「やはり、罠を疑っていたか」
 剣を抜き、襲いかかってくる。
「ココ、下がってろ!」
 レイが応戦する。
 激しい剣戟。火花が散る。
「くそ、こいつ、強い!」
 レイが押され始める。
「レイさん!」
 助けないと。
 私は、攻撃用のお菓子を作った。
「爆裂クッキー!」
 クッキーを投げる。それが敵の足元で爆発し、煙が上がる。
「ぐあ!」
 リーダーがよろめく。
 その隙に、レイが剣を振り下ろした。
「終わりだ!」
 リーダーの剣が折れ、彼は倒れた。
「やった……」
「ココ、お前、今の……」
「爆裂クッキーです。お菓子魔法にも、攻撃系があるんです」
「恐ろしい女だな」
 レイは苦笑した。

 証拠を持って王宮へ。
 国王は、純血の剣を一掃することを約束した。
「ココ、お前は再び我が国を救った」
「いえ、レイさんの協力があったからです」
「レイ……お前も、よくやった」
 国王がレイに目を向ける。
「元、我が騎士団の一員だったな」
「……はい」
「戻ってこないか。お前の腕は、まだ国に必要だ」
 しかし、レイは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、お断りします」
「なぜだ」
「オレには、守るべきものができました」
 レイが私を見る。
「この女を、守りたいんです」
 胸が高鳴る。
「そうか……ならば、仕方ない」
 国王は理解を示してくれた。


 その夜、レイと二人で夜空を見上げた。
「本当に、いいんですか? 騎士に戻れたのに」
「ああ。オレは、もう昔のオレには戻れない」
「どうして騎士を辞めたんですか?」
 レイは、少し沈黙した後、語り始めた。
「五年前、命令で、魔法使いの村を襲撃した」
「……」
「そこには、悪人なんていなかった。ただ、平和に暮らしている人たちだった。でも、命令だから、彼らを……」
 言葉が詰まる。
「それ以来、オレは騎士でいることができなくなった。だから、逃げた」
「レイさん……」
「でも、お前に出会って、わかったんだ。魔法は悪じゃない。使う人次第だって」
 彼は私の手を取った。
「ココ、一緒に来てくれないか」
「え?」
「お前の旅に、同行したい。お前を守りながら、お前のお菓子を世界中に広めたい」
心が、答えを出していた。
「はい。一緒に行きましょう」
 こうして、私とレイの旅が始まった。