王国魔法顧問の称号を得て、もふもふカフェはさらに発展した。
店は拡張され、弟子も十人に増えた。
お菓子魔法の学校も設立され、多くの若者が学んでいる。
「師匠、これでいいですか?」
リリアが新作のお菓子を持ってくる。
「完璧よ。あなたももう立派なお菓子職人ね」
リリアは、この一年で驚くほど成長した。今では、私がいなくても店を回せるほどだ。
グレンも、ノエルも、それぞれ得意分野を持ち、独立できるレベルになった。
「そろそろ、次の段階に進む時期かもしれない」
ある日、王女が訪ねてきた。
「ココ、お願いがあるの」
「何でしょうか?」
「他の国にも、お菓子を広めてほしいの。隣国のベルグランドは、今、飢饉で苦しんでいるわ。あなたのお菓子魔法なら、人々を救えるかもしれない」
新しい挑戦。心が躍る。
「行きます」
「ただし、ベルグランドは魔法を嫌う国よ。慎重に行動してね」
準備を整え、ベルグランドへの旅に出る。
今回は、弟子たちを店に残し、一人で行くことにした。
「師匠、気をつけてください」
「必ず、成功させてきます」
馬車で一週間。国境を越えると、風景が変わった。
荒れた土地。
痩せた作物。
疲れた表情の人々。
「ひどい状態……」
ベルグランドの首都、アルトハインは、石と鉄の匂いがする街だった。
白い石畳は磨かれているのに、どこか冷たく、行き交う人々の足取りも早い。
市場は賑わっていた。
だが、王都で見たものとは、少し違う。
並んでいるのは保存食や乾物、栄養価の高い粉末食品ばかりで、
甘い香りのする菓子は、ほとんど見当たらなかった。
「……甘いもの、少ないですね」
思わず、そう呟いていた。
この街では、食べ物は「生きるための道具」なのだと、すぐに分かった。
効率、保存性、実用性。
それらが何より重視されている。
お菓子は、嗜好品。なくても困らないもの。場合によっては、無駄なもの。
そんな空気が、街全体に染み込んでいるようだった。
その予感は、すぐに現実になった。
「……これは、何だ?」
露店の前で、低い声が響いた。
私が差し出したクッキーを見て、男は眉をひそめている。
「甘い……のか? 今はそんなものを食べている場合じゃない」
周囲の人々も、ちらりとこちらを見て、すぐに視線を逸らした。
誰も怒ってはいない。
けれど、誰も必要としていない。
その事実が、静かに突きつけられる。
胸が、きゅっと締めつけられた。
(今までと、同じじゃだめなんだ)
この街では、甘いものは救いにならない。
少なくとも、今のままでは。
甘味が、人を幸せにするとは限らない場所。
そんな街に、私は足を踏み入れてしまったのかもしれない。
ベルグランドでは、魔法は管理される力だった。
許可なき使用は危険とされ、特に獣人や魔族の力は、
戦争の記憶と結びついて、強く警戒されている。
だからこそ――
「魔法使いだ! 捕らえろ!」
私の獣耳を見て、人々が騒ぎ出した。
「待ってください! 私は……」
説明する間もなく、兵士に囲まれる。
「この国では、魔法は禁止されている。お前のような魔物は、処刑だ」
「魔物じゃありません!」
しかし、聞く耳を持たない。
牢獄に入れられる。
「どうしよう……」
絶望しかけたその時、牢の外から声がした。
「やあ、困っているようだね」
そこには、見知らぬ青年が立っていた。黒髪、鋭い目つき、軽薄そうな笑み。
「誰?」
「オレはレイ。しがない盗賊さ」
「盗賊……?」
「心配するな、悪い奴じゃない。ただ、この国が嫌いでね。ちょっとした反抗をしているだけさ」
レイは、牢の鍵を開けた。
「逃げるぞ」
「でも……」
「でももへったくれもない。ここにいたら、明日処刑されるぞ」
彼の言う通りだった。
レイと共に、城から脱出する。
「なぜ助けてくれたんですか?」
「さあね。気まぐれかな」
彼は笑う。
「でも、獣耳の可愛い女の子を見殺しにはできないだろ?」
からかうような口調だが、悪気はなさそうだ。
「それに、お前、何か面白そうなことを企んでいるだろ? オレは、そういうの好きなんだ」
レイの隠れ家に案内される。
そこは、街の外れにある廃墟だった。
「ここなら安全だ」
「ありがとうございます」
「で、何しに来たんだ、この国に」
事情を説明すると、レイは興味深そうに聞いていた。
「お菓子魔法ね。面白い。この国の連中は、魔法を悪だと決めつけているが、実際は違う」
「違う?」
「ああ。昔、魔法使いが王を裏切って、クーデターを起こしたんだ。それ以来、魔法は禁止されている。でも、それは一部の悪人のせいで、魔法自体が悪いわけじゃない」
「そうですよね」
「お前のお菓子が本当に人を救えるなら、それを証明すればいい。そうすれば、この国も変わるかもしれない」
レイの言葉に、勇気をもらった。
「手伝ってくれますか?」
「おう、任せろ。オレは、こういう無茶な計画、大好きなんだ」
こうして、私とレイの奇妙な共同作戦が始まった。
店は拡張され、弟子も十人に増えた。
お菓子魔法の学校も設立され、多くの若者が学んでいる。
「師匠、これでいいですか?」
リリアが新作のお菓子を持ってくる。
「完璧よ。あなたももう立派なお菓子職人ね」
リリアは、この一年で驚くほど成長した。今では、私がいなくても店を回せるほどだ。
グレンも、ノエルも、それぞれ得意分野を持ち、独立できるレベルになった。
「そろそろ、次の段階に進む時期かもしれない」
ある日、王女が訪ねてきた。
「ココ、お願いがあるの」
「何でしょうか?」
「他の国にも、お菓子を広めてほしいの。隣国のベルグランドは、今、飢饉で苦しんでいるわ。あなたのお菓子魔法なら、人々を救えるかもしれない」
新しい挑戦。心が躍る。
「行きます」
「ただし、ベルグランドは魔法を嫌う国よ。慎重に行動してね」
準備を整え、ベルグランドへの旅に出る。
今回は、弟子たちを店に残し、一人で行くことにした。
「師匠、気をつけてください」
「必ず、成功させてきます」
馬車で一週間。国境を越えると、風景が変わった。
荒れた土地。
痩せた作物。
疲れた表情の人々。
「ひどい状態……」
ベルグランドの首都、アルトハインは、石と鉄の匂いがする街だった。
白い石畳は磨かれているのに、どこか冷たく、行き交う人々の足取りも早い。
市場は賑わっていた。
だが、王都で見たものとは、少し違う。
並んでいるのは保存食や乾物、栄養価の高い粉末食品ばかりで、
甘い香りのする菓子は、ほとんど見当たらなかった。
「……甘いもの、少ないですね」
思わず、そう呟いていた。
この街では、食べ物は「生きるための道具」なのだと、すぐに分かった。
効率、保存性、実用性。
それらが何より重視されている。
お菓子は、嗜好品。なくても困らないもの。場合によっては、無駄なもの。
そんな空気が、街全体に染み込んでいるようだった。
その予感は、すぐに現実になった。
「……これは、何だ?」
露店の前で、低い声が響いた。
私が差し出したクッキーを見て、男は眉をひそめている。
「甘い……のか? 今はそんなものを食べている場合じゃない」
周囲の人々も、ちらりとこちらを見て、すぐに視線を逸らした。
誰も怒ってはいない。
けれど、誰も必要としていない。
その事実が、静かに突きつけられる。
胸が、きゅっと締めつけられた。
(今までと、同じじゃだめなんだ)
この街では、甘いものは救いにならない。
少なくとも、今のままでは。
甘味が、人を幸せにするとは限らない場所。
そんな街に、私は足を踏み入れてしまったのかもしれない。
ベルグランドでは、魔法は管理される力だった。
許可なき使用は危険とされ、特に獣人や魔族の力は、
戦争の記憶と結びついて、強く警戒されている。
だからこそ――
「魔法使いだ! 捕らえろ!」
私の獣耳を見て、人々が騒ぎ出した。
「待ってください! 私は……」
説明する間もなく、兵士に囲まれる。
「この国では、魔法は禁止されている。お前のような魔物は、処刑だ」
「魔物じゃありません!」
しかし、聞く耳を持たない。
牢獄に入れられる。
「どうしよう……」
絶望しかけたその時、牢の外から声がした。
「やあ、困っているようだね」
そこには、見知らぬ青年が立っていた。黒髪、鋭い目つき、軽薄そうな笑み。
「誰?」
「オレはレイ。しがない盗賊さ」
「盗賊……?」
「心配するな、悪い奴じゃない。ただ、この国が嫌いでね。ちょっとした反抗をしているだけさ」
レイは、牢の鍵を開けた。
「逃げるぞ」
「でも……」
「でももへったくれもない。ここにいたら、明日処刑されるぞ」
彼の言う通りだった。
レイと共に、城から脱出する。
「なぜ助けてくれたんですか?」
「さあね。気まぐれかな」
彼は笑う。
「でも、獣耳の可愛い女の子を見殺しにはできないだろ?」
からかうような口調だが、悪気はなさそうだ。
「それに、お前、何か面白そうなことを企んでいるだろ? オレは、そういうの好きなんだ」
レイの隠れ家に案内される。
そこは、街の外れにある廃墟だった。
「ここなら安全だ」
「ありがとうございます」
「で、何しに来たんだ、この国に」
事情を説明すると、レイは興味深そうに聞いていた。
「お菓子魔法ね。面白い。この国の連中は、魔法を悪だと決めつけているが、実際は違う」
「違う?」
「ああ。昔、魔法使いが王を裏切って、クーデターを起こしたんだ。それ以来、魔法は禁止されている。でも、それは一部の悪人のせいで、魔法自体が悪いわけじゃない」
「そうですよね」
「お前のお菓子が本当に人を救えるなら、それを証明すればいい。そうすれば、この国も変わるかもしれない」
レイの言葉に、勇気をもらった。
「手伝ってくれますか?」
「おう、任せろ。オレは、こういう無茶な計画、大好きなんだ」
こうして、私とレイの奇妙な共同作戦が始まった。



