帰りの馬車は、静かだった。
けれどその静けさは、重さではなく、心地よい余韻のようなものだった。
ディランとの距離が、いつもより近い。
肩が触れそうで、触れない。
その微妙な距離が、妙に意識に触れる。
――嫌じゃない。むしろ、落ち着く。
ふと、手をそっと握られた。
驚いて顔を上げると、ディランがまっすぐこちらを見ていた。
その瞳は、さっき書斎で見たものよりも、ずっと柔らかい。
「今日、ティアナとここに来られてよかった」
「……はい。私も、そう思います」
握られた手は、あたたかい。
馬車の揺れに合わせて、指先がほんの少し触れ合うたび、胸が甘く締めつけられる。
馬車は静かに進んでいく。
けれどその沈黙は、もう先ほどまでのものとは違っていた。
2人だけの、やわらかい甘さを含んだ沈黙だった。



