第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


帰りの馬車は、静かだった。

けれどその静けさは、重さではなく、心地よい余韻のようなものだった。
ディランとの距離が、いつもより近い。
肩が触れそうで、触れない。
その微妙な距離が、妙に意識に触れる。

――嫌じゃない。むしろ、落ち着く。

ふと、手をそっと握られた。

驚いて顔を上げると、ディランがまっすぐこちらを見ていた。
その瞳は、さっき書斎で見たものよりも、ずっと柔らかい。

「今日、ティアナとここに来られてよかった」

「……はい。私も、そう思います」

握られた手は、あたたかい。
馬車の揺れに合わせて、指先がほんの少し触れ合うたび、胸が甘く締めつけられる。

馬車は静かに進んでいく。
けれどその沈黙は、もう先ほどまでのものとは違っていた。
2人だけの、やわらかい甘さを含んだ沈黙だった。