そして、書斎にやってきた。
壁一面に本が並び、背の高い本棚が静かに影を落としている。
午後の光が大きな窓から差し込む。
その光が、部屋の奥まであたたかく照らしている。
「……たくさんありますね」
「そうだな」
「とりあえず、見てもいいですか?」
「ああ、もちろん」
私はゆっくりと歩き出す。
足音が、厚い絨毯に吸い込まれていく。
「ディランは、ここでよく本を読んでいたのですか?」
「うん。幼い頃ね。ここにある本は……全部読んだな」
「……さすがですね」
感嘆の声が、思わずこぼれる。
本棚の前を進みながら、指先で背表紙をそっと撫でると、革の感触がやわらかく返ってきた。
――ディランの幼少期。
王子としてではなく、ただの子供として。
たくさんの本に囲まれて、ここで穏やかな時間を過ごしていたのだろうか。
そう思うと、胸の奥が少しだけあたたかくなる。
ディランが、一冊の本の前で足を止めた。
「……どうしました?」
近づいて声をかけると、彼は眉を寄せたまま本を見つめていた。
「この本は……読んだことがないな」
そう言って、分厚い本を手に取る。
表紙は古いが、丁寧に扱われてきた跡がある。
ページを開くと――
中は、空洞になっていた。
そこに収められていたのは、小さな箱。
ディランが、それを取り出す。
手のひらに乗せると、箱はひんやりとした金属の感触を放っていた。
「……開かないな」
「鍵穴も、見当たりませんね」
2人で箱を覗き込む。
沈黙が落ち、外の風の音だけが微かに聞こえた。
そのとき、ディランが箱をひっくり返す。
「……魔宝石だ」
「本当ですね」
装飾の一部のように嵌め込まれた、小さな魔宝石。
邪悪な気配はない。黒い靄も見えない。
それどころか――
胸の奥が、ほんのりとあたたかくなるような、優しい気配があった。
ディランが、箱に魔力を込める。
「……やっぱり、開かない」
「それなら……2人で、やってみましょう」
「そうだね」
そっと、手を重ねる。
指先から、静かに魔力を流し込む。
2人の魔力が触れ合い、淡い光が箱の縁をなぞった。
――カチリ。
小さく、確かな音がした。
箱が、ゆっくりと開いた。
そして、中には――



