第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


そして、書斎にやってきた。

壁一面に本が並び、背の高い本棚が静かに影を落としている。
午後の光が大きな窓から差し込む。
その光が、部屋の奥まであたたかく照らしている。

「……たくさんありますね」

「そうだな」

「とりあえず、見てもいいですか?」

「ああ、もちろん」

私はゆっくりと歩き出す。
足音が、厚い絨毯に吸い込まれていく。

「ディランは、ここでよく本を読んでいたのですか?」

「うん。幼い頃ね。ここにある本は……全部読んだな」

「……さすがですね」

感嘆の声が、思わずこぼれる。
本棚の前を進みながら、指先で背表紙をそっと撫でると、革の感触がやわらかく返ってきた。

――ディランの幼少期。

王子としてではなく、ただの子供として。
たくさんの本に囲まれて、ここで穏やかな時間を過ごしていたのだろうか。
そう思うと、胸の奥が少しだけあたたかくなる。

ディランが、一冊の本の前で足を止めた。

「……どうしました?」

近づいて声をかけると、彼は眉を寄せたまま本を見つめていた。

「この本は……読んだことがないな」

そう言って、分厚い本を手に取る。
表紙は古いが、丁寧に扱われてきた跡がある。

ページを開くと――
中は、空洞になっていた。

そこに収められていたのは、小さな箱。

ディランが、それを取り出す。
手のひらに乗せると、箱はひんやりとした金属の感触を放っていた。

「……開かないな」

「鍵穴も、見当たりませんね」

2人で箱を覗き込む。
沈黙が落ち、外の風の音だけが微かに聞こえた。

そのとき、ディランが箱をひっくり返す。

「……魔宝石だ」

「本当ですね」

装飾の一部のように嵌め込まれた、小さな魔宝石。
邪悪な気配はない。黒い靄も見えない。

それどころか――
胸の奥が、ほんのりとあたたかくなるような、優しい気配があった。

ディランが、箱に魔力を込める。

「……やっぱり、開かない」

「それなら……2人で、やってみましょう」

「そうだね」

そっと、手を重ねる。
指先から、静かに魔力を流し込む。
2人の魔力が触れ合い、淡い光が箱の縁をなぞった。

――カチリ。

小さく、確かな音がした。

箱が、ゆっくりと開いた。

そして、中には――