第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ほら!つ、次いきますよ!」

恥ずかしさを誤魔化すように声を上げる。

「はいはい。
甘い罠っていうと…お菓子かな?」

「キッチンですかね?」

「行ってみよう」

「はい」

そう返事をして歩き出したところで、私はディランをみる。


「本当に、心当たりないのですか?」

「うん。
ここに来ていたのは、随分昔だからな。
俺も、久しぶりに来た」

そう言って、ディランは軽く肩をすくめる。



二人で『隠されし甘い罠』についてキッチンの戸棚を探したり、考えてみるが、答えらしい答えは、ちっとも浮かばなかった。

「……少し、休憩にしょうか」

「そうですね」

テラス席へ腰を下ろすと、
ディランが慣れた手つきで紅茶の準備を始める。

湯を注ぎ、香りがふわりと立ちのぼる。

そのとき――

「あった……」

ディランが、ぽつりと呟いた。

ティーカップを取ろうとした、その奥。
影になる場所に、小さな木箱が置かれている。

「……本当ですか?」

思わず身を乗り出す。

中を開けると、一枚の紙が入っていた。

『静かなる本の虫へ』

「……書斎、か」

思わずそうディランが呟く。


「では、紅茶を飲み終わったら行ってみましょうか」

「そうだな」

ディランは、特に疑問も抱かない様子で頷いた。
けれどその仕草は、どこか懐かしさを含んでいるようにも見えた。