第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「君のことかな」

「……なんでそうなるんですか?」

「ティアナが俺を誘惑するからだよ。可愛くて、甘すぎるくらいにね」

「……」

「そんな冷たい目で見ないでよ。刺さるから」

「ふざけないでください」

「ふざけてないよ?
実際、君の甘い魅力に落ちてる人たちを、俺は何人も知ってる」

「はあ……」

私は曖昧に返す。

「そんなに見つめられると照れるな」

「ディランの方が“甘い罠”って言葉が似合いますよ」

ディランの方がモテモテのくせに。あの甘い笑顔で令嬢達を虜にしているのだから。

「そう?」

「はい。令嬢達をたくさん連れてたでしょ? 私の誕生日パーティーのとき」

キョトンとしたディランが、一拍置いてからニヤリと笑った。

「……ああ、あれか」

ディランは肩をすくめる。

「連れてたっていうより、囲まれてただけだよ。俺は逃げ場がなかったんだ」

「逃げ場……?」

「そう。君の家のパーティーだし、無下にもできないだろ? だから笑ってただけ」

「でも、楽しそうでしたよ?」

「楽しそうに“見えた”なら、ティアナのせいだな」

「私の……?」

「君が遠くから見てるのに気づいたから、余計に格好つけたんだよ」

「……は?」

「だって、君が見てると、ちょっとだけ張り切りたくなる」

ディランは軽く笑いながら、私の顔を覗き込む。
その距離が近すぎて、思わず息を呑んだ。

「ねえ、ティアナ。あのとき、少しでも嫉妬した?」

「し、してません!」

「ふーん。じゃあ、今は?」

「い、今もしてません!」

「じゃあ、どうしてそんなに顔が赤いの?」

「っ……!」

ディランの指先が、そっと私の頬に触れた。
触れた瞬間、心臓が跳ねる。

「可愛いな、ティアナ」

その声は、令嬢達に向ける甘さとはまるで違っていた。