第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「行ってみようか」

ディランが紙を軽く折りながら言う。
その声音には、どこか楽しげな響きがあった。

「そうですね。なんだか、冒険みたいでわくわくします」

「それは良かった」

ふっと笑う横顔が、光に照らされて柔らかい。

――鮮やかな花の咲く場所。

見渡せば、花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。
赤、青、黄色、紫……どれも鮮やかで、まるで絵本の中の庭のようだ。

「とりあえず俺はこっちから。ティアナは、そっちから回ってきてくれ」

「はい!」

ふたりは別々の小道へと歩き出す。

花々が陽の光を浴びて揺れ、風がそっと香りを運んでくる。
その美しさに、思わず足を止めてしまう。

――けれど。

私は、ふと視線を落とした。

サルビア。
紫色の花が、静かに揺れている。

(家族愛……)

前にディランが話してくれた言葉が胸に浮かぶ。
“母は厳しかったが、父は優しくて、いくつも隠れ家を作ってくれた”と。

胸の奥が、そっと温かくなる。

花壇の縁に腰を下ろすと――見つけた。

根元に、ひっそりと隠された小さな木箱。

「ディラン、ありました」

声をかけると、ディランが軽い足取りでこちらへ向かってくる。

ふたりで木箱を開ける。

中に入っていたのは、一枚の紙。

『水面に映る影を追え』

「……影?」

思わず声に出すと、ディランは紙をひょいと持ち上げる。


「川だな。行ってみよう」


風が紙を揺らし、ふたりの間に静かな期待が流れる。