「食休みがてら、少し身体を動かさないかい?」
ディランが紅茶のカップを置きながら言う。
ちょうど同じことを考えていた私は、自然と笑みがこぼれた。
「いいですよ」
差し出された手を迷わず取ると、指先がそっと絡む。
そのままガーデンを並んで歩き出す。
風が葉を揺らし、木漏れ日が足元に揺れる。
ふと、色鮮やかな小鳥が枝から枝へと飛び移った。
その軌跡を目で追って――私は気づく。
「ねえ、ディラン。あれは……何です?」
木の幹に、小さな木箱が括りつけられていた。
巣箱にしては低すぎる。
けれど、誰かの忘れ物にしては妙に丁寧で、意図的に置かれたように見える。
「あれは……」
ディランは近づきながら首を傾げた。
「なんだろ」
次の瞬間、彼は迷いなく木に手をかけ、軽やかに登っていく。
枝に足をかける動きがあまりに自然で、思わず見惚れてしまう。
木箱を覗き込んだディランが、中から小さな箱をひとつ取り出した。
「これは……?」
「んー……思い出せないな」
冗談めかした声なのに、横顔は本気で“知らない”と言っていた。
眉がわずかに寄っていて、珍しく困惑しているようにも見える。
ディランは箱を開ける。
中に入っていたのは、一枚の紙。
『導かれしものへ
次は、鮮やかな花の咲く場所へ』
子供の字のように丸いのに、線は驚くほど整っている。
まるで、誰かが丁寧に練習した跡のような文字。
ディランはしばらく紙を見つめたまま、微動だにしなかった。
その表情は――
本当に、まったく記憶に覚えがないという顔だった。
風がそっと紙を揺らし、静かなガーデンに不思議な空気が流れる。



