第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

誕生日の余韻が、まだ醒めないまま。
私は早朝から執務室にこもり、仕事に取り組んでいた。

書類に目を通し、確認を進める。
――ユウリからもらった万年筆、驚くほど書きやすい。

(道具一つで、気分って変わる)

コンコン、と控えめなノック。

「お嬢様。
今日は……デートですよね」

「もう、そんな時間?」

「はい。準備いたしましょう」

そう言って、アリスは手早くドレスを選び、
あっという間に支度を整えてくれる。

「できましたよ」

「ありがとう」

鏡の前で身だしなみを確認していると、
アリスが少し真剣な顔でこちらを見る。

「お嬢様……」

「なに?」

「男は、狼です」

「……急に?」

「特に、あの王子は危険です。
どうか油断なさらないように」

あまりにも真面目に言うものだから、
思わず笑ってしまう。

「ふふ……わかったわ」

――本当に、そうなのだろうか。

そう思いながらも、
胸の奥が少しだけざわめくのを、私は無視できなかった。

「もし襲ってきたら、
この前騎士団員達からもらっていた切れ味の良さそうなナイフで応戦してくださいね」

「……なにそれ、物騒すぎる!」

「冗談ですよ、冗談」

一拍置いて、真顔で。

「……半分は」

「半分!?」

「お嬢様が無事に戻ってくることが、
私の最優先事項ですから」

そう言って、アリスはきっちりと微笑んだ。

(冗談なのか、本気なのか……)

胸の奥が、少しだけくすぐったくなる。