第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

皆が思い思いに酒を交わし、笑い声が絶えず響く。
灯りに照らされた部屋は、穏やかな賑わいに包まれていた。

――たまには、こういうのもいい。

ふと視線を向けると、セナが壁際で静かにグラスを持っていた。
周囲の騒がしさとは対照的に、彼だけは落ち着いた空気をまとっている。

「セナは飲まないの?」

問いかけると、彼は少しだけ視線を落とした。

「俺は……当分、酒はいいです」

「そう」

短い返事なのに、どこか柔らかい。
そのやり取りだけで、自然と笑みがこぼれる。

セナは少し間を置いてから、そっと手を伸ばした。

「……そうだ。これは、俺からです」

差し出された小さな包みに視線を落とす。
丁寧に結ばれたリボンが、彼の性格をそのまま表しているようだった。

開けてみると――

「……オルゴール?」

木目の美しい小箱。
蓋を開けると、小さな歯車がきらりと光る。

「はい。それに、小物入れにもなります。前に差し上げたピアスとか、外したときに入れてもらえたら」

少し照れたように、セナが笑う。
その笑顔は、普段の彼からは想像できないほど柔らかかった。

「ありがとう。大事にするね」

言葉にすると、胸の奥がふっと温かくなる。
今日だけで、どれほどの“想い”を受け取っただろう。

形ある贈り物も、
言葉も、
気遣いも、
全部が胸に積もっていく。

(こんな誕生日、初めてかもしれない)

誰かに囲まれ、
誰かに必要とされ、
誰かに大切にされていると、はっきり実感できる夜。

――幸せだ。

静かにそう思いながら、私はオルゴールをそっと胸に抱きしめた。