第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランの腕の中は、驚くほどあたたかい。
抱き寄せられた肩越しに、彼の呼吸が静かに触れてくる。

「このまま離したくないな」

低く落ちた声は、耳元で溶けるように甘い。
胸の奥がきゅっと縮む。

「そういうわけにもいきませんよ」

そう言いながらも、彼の腕の力が少し強くなるのを感じてしまう。

「それもそうだが……このまま独り占めしてしまいたい」

囁くような声。
まるで秘密を共有するみたいに近い。

「ふふ、なんか子供みたいですね」

軽く笑ってみせると、ディランはわざとらしく肩をすくめた。

「そうだよ。こんな俺は嫌いかい?」

こてん、と首を傾げる仕草が妙に自然で、色気がだだ漏れだ。
これでは令嬢たちが群がるのも納得だと思う。

「嫌いじゃないです…」

言った瞬間、自分の声が少し震えているのに気づく。

「そう。なら好き?」

間髪入れずに返ってくるその言葉。
この人はほんとうにずるい。

返事に詰まっていると、ディランは目を細めて笑った。

「ふふ、困ってるな」

クスクスと喉の奥で笑うその声が、くすぐったくて、逃げたくなるのに離れたくない。

彼の指先がそっと頬に触れ、視線が絡む。
心臓の音が、彼に聞こえてしまいそうだ。