第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

部屋に戻ると、アリスが手際よく着替えを手伝ってくれる。

――はぁ。
すっきりした。

ルイのドレスは本当に素敵だったけれど、
あれは“魅せるため”の服だ。
食事をするには、正直向いていない。

動きやすい服に着替えた、そのとき。

コンコン、と控えめなノックの音。

「ティアナ……入ってもいいかい?」

ディランの声だ。

「はい」

入れ替わるように、アリスが一礼して部屋を出ていく。

私は小さく息を吐き、椅子に腰掛けた。

「……まだいらしたんですね。
てっきり、もうお帰りになったのかと」

「帰るわけないだろ」

即答だった。

「君との時間が、まるで足りない」

あまりにも真顔で言われて、言葉に詰まる。

「……ドレス、脱いだのか」

「はい」

「綺麗だったな。本当に」

少し間を置いて、穏やかに続ける。

「今も、十分すぎるほど綺麗だが」

「……よくもまあ、そんな言葉がすらすらと」

誤魔化すように言うと、ディランは小さく笑った。

「君への想いが、勝手に溢れてくるんだ」

ディランの手が、ゆっくりと伸びる。
――けれど、私に触れる前で、ぴたりと止まった。

「……君が、触れたいと思うまで待つつもりだった」

低く、静かな声。

「だが……中々、辛いものだな」

そう言って、手を下ろそうとする。

その瞬間、
考えるより先に、体が動いた。

――ぎゅっ。

下ろされかけたその手を、思わず掴んでいた。

(……あ)

自分の行動に、心臓が跳ねる。

触れた掌は、驚くほど温かくて、
もう、離したくないと思ってしまった。