第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

セナと会場に戻ると。

「すごいですね」

「そうね」

視線の先では、ディランが数人の令嬢に囲まれていた。
笑顔を向けられ、言葉を交わし――まるで社交の中心に立つ王子そのものだ。

大人気だ。

ガイルの件があり、私との婚約も有耶無耶になる。
そう思っている人は多いのだろう。

……私自身も、その一人だ。

だから当然の光景のはずなのに、
胸の奥が、かすかに――ちくりと痛んだ。

(どうして、今さら)

すると背後から、落ち着いた声がかかる。

「気になさらないでくださいね」

振り返ると、そこにいたのはレイさんだった。

「殿下にその気は一切ありませんから。
視線も、気持ちも――ティアナ様だけに向いています」

「それは……どうでしょう」

思わず、そう返してしまう。

正直に言えば、私は王妃になりたくない。
責任も、立場も、覚悟も。
どれも自分には重すぎると思っている。

――だからこそ。

このままディランが痺れを切らし、
誰か別の令嬢へ目を向けてしまう可能性を、
頭のどこかで想像してしまう。

それが「正しい結末」なのかもしれないのに、
そうなったら、と考えるだけで胸がざわつく。

「あの人、一度執着すると手を離しませんよ?」

レイさんは眼鏡をくいっと上げ、淡々と言った。

「俺も、そう思います」

セナも小さく頷く。

その言葉に、ほっとしたような、
それでいて逃げ場を塞がれたような――
複雑な気持ちが胸に残った。