第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「とりあえず、騎士団に行ってくる」

勢いよく立ち上がると、ユウリが静かに頭を下げた。

「かしこまりました」

その声を背に受けながら、自室へ戻る。
アリスも、当然のように後ろをついてくる。


「……お嬢様。大変なことになりましたね」

着替えの準備をしながら、アリスがぽつりと呟いた。
その声音は同情半分、面白がり半分。

「ほんとにね」

「完全に、あの王子……お嬢様の外堀から固めにきてますよ」

「そうなのかなぁ……。
 それにしたって、王妃教育なんて……」

思わず天井を仰ぐ。
重力が倍になったみたいに、肩がずしりと重い。

「あーー……いやだぁ……」

「まあ、どんまいです」

アリスはどこか楽しそうに肩をすくめた。
慰める気があるのかないのか、相変わらず読めない。

「とんでもない王子に執着されてしまいましたね。
 お嬢様に魅力があるのは、分かりますけど」

「…それはありがとう」

「だからといって、独り占めさせませんけどね」

ぼそっと、妙に低い声が聞こえた。
背筋がひやりとする。

身支度を終え、扉へ向かう。

「じゃあ行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

アリスが綺麗にお辞儀をする。
その優雅さとは裏腹に、私の足取りは重い。

廊下に出た瞬間、ため息がひとつ漏れた。