第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

私は一人一人挨拶周りをする。
脳内フル回転で、名前と顔を一致させながら、笑顔を絶やさないように気をつける。

「お誕生日おめでとうございます、ティアナ様」

「ありがとうございます。シトリン伯爵家のアルマ様」

「殿下との婚約はまだ続いていたのですね」

「ええ……」
曖昧に返す。胸の奥で、ディランの存在が少しだけ重く感じられる。

「ぜひうちの娘をと、思っていたのですが……」
チラッとディランを見るアルマ伯爵。

「今日はティアナ嬢の誕生日だ、その話は、なしだよ」

そう牽制するディランに、アルマ公爵は慌てて頭を下げる。

それにしたって、ディランに集まる視線。
嫉妬や羨望が、まるで視線の刃のように私を突き刺す。
不思議と心臓が少し早くなる。こんなにも彼の存在が自分を中心にして回っていることを、改めて感じてしまう。


「ティアナ様、お誕生日おめでとうございます」

「レイさん……ありがとうございます」

眼鏡をかけ、深い紫の髪をきちんと整えた姿。
ディランの側近であり、常に冷静で頼れる存在だ。

「殿下が随分付き纏っているようで、申し訳ありません」

「レイ……」

「失礼」
こほんと咳払いをひとつ。

「何かあれば、私にいつでもご相談ください。対処いたします」

その態度に、私はふっと笑みを浮かべる。
頼もしさと少しの可愛げを感じる瞬間だ。

「はい、お願いします」

ふと視線をあげると、ディランが少し不満そうに眉をひそめている。
「全く……俺への敬意が足りない」

思わず胸の奥でくすぐったい感情が芽生える。