コンコンと控えめなノック。
「どうぞ」
小さな咳払いが聞こえ、振り返ると兄のマルクが立っている。
「お誕生日おめでとう、妹」
そう言って手渡されたのは、深紅の花びらが美しいバラ。
「ありがとうございます。やっと直接持ってきてくれましたね」
「う、うるさい」
「最近は勉強も真面目にやっているみたいですね」
「ああ、母上が厳しいからな」
ふふっと笑い、短い会話を交わす。
かつては自分のことを嫌っているのでは、と感じていた兄との関係も、こうして自然に話せる距離になりつつある。
「そういえば。お兄様」
バラを見つめながら口を開く。
「なんだ」
「ナナとは付き合っているんですか?」
「ぶはっ」
思いきりむせた兄が、手で口元を押さえる。
その様子が妙に可笑しくて、つい口が滑る。
「汚いですね」
「なんだ急に…」
兄は眉間に皺を寄せたまま、こちらを横目でにらむ。
けれど、その耳がほんのり赤いのを私は見逃さなかった。
「あんなに良い子いないですよ? お兄様のことを昔から知った上で、ずっとそばにいてくれているのに」
「お前には関係ない」
「ふーん。あまりボサボサしてると、とられますよ?」
「うるさい。お前こそ」
兄はわざとらしく咳払いをして、話題を変える。
「殿下はどうした? 婚約中なのか? 結婚する気なのか?」
「それは…どうでしょう」
言葉を濁すと、胸の奥が少しだけ重くなる。
殿下は優しい。けれど――。
「私…王妃にはなりたくないです」
ぽつりと漏らした本音に、兄は一瞬だけ目を丸くした。
「お前こそ、ボサボサしてると他の令嬢にとられるぞ。殿下は人気者だ」
「そうですね」
そう答えながらも、心はどこか遠くにあった。
ディランの笑顔を思い浮かべると、胸が温かくなるのに、王妃という言葉がつくと急に息苦しくなる。
「どうぞ」
小さな咳払いが聞こえ、振り返ると兄のマルクが立っている。
「お誕生日おめでとう、妹」
そう言って手渡されたのは、深紅の花びらが美しいバラ。
「ありがとうございます。やっと直接持ってきてくれましたね」
「う、うるさい」
「最近は勉強も真面目にやっているみたいですね」
「ああ、母上が厳しいからな」
ふふっと笑い、短い会話を交わす。
かつては自分のことを嫌っているのでは、と感じていた兄との関係も、こうして自然に話せる距離になりつつある。
「そういえば。お兄様」
バラを見つめながら口を開く。
「なんだ」
「ナナとは付き合っているんですか?」
「ぶはっ」
思いきりむせた兄が、手で口元を押さえる。
その様子が妙に可笑しくて、つい口が滑る。
「汚いですね」
「なんだ急に…」
兄は眉間に皺を寄せたまま、こちらを横目でにらむ。
けれど、その耳がほんのり赤いのを私は見逃さなかった。
「あんなに良い子いないですよ? お兄様のことを昔から知った上で、ずっとそばにいてくれているのに」
「お前には関係ない」
「ふーん。あまりボサボサしてると、とられますよ?」
「うるさい。お前こそ」
兄はわざとらしく咳払いをして、話題を変える。
「殿下はどうした? 婚約中なのか? 結婚する気なのか?」
「それは…どうでしょう」
言葉を濁すと、胸の奥が少しだけ重くなる。
殿下は優しい。けれど――。
「私…王妃にはなりたくないです」
ぽつりと漏らした本音に、兄は一瞬だけ目を丸くした。
「お前こそ、ボサボサしてると他の令嬢にとられるぞ。殿下は人気者だ」
「そうですね」
そう答えながらも、心はどこか遠くにあった。
ディランの笑顔を思い浮かべると、胸が温かくなるのに、王妃という言葉がつくと急に息苦しくなる。



