日が、ゆっくりと傾いてきた。
「……もう、帰る時間だね」
テオの声は、ほんの少しだけ名残惜しさを含んでいた。
「うん」
そう答えた瞬間、
ごく自然に手が伸びてくる。
拒む理由なんて、どこにもなかった。
引かれるまま歩き出す。
夕暮れに揺れる遺跡を跡にする。
その中を進む、テオの背中。
……いつの間に、
こんなに大きくなったんだろう。
出会った頃は、
細くて、頼りなくて、
それでも必死に前を向いていた。
今は、
鍛え抜かれた身体と、迷いのない歩き方。
夕陽に照らされた肩幅の広さが、
胸の奥を少しくすぐった。
「……なに?」
振り返ったテオが、首を傾げる。
「え?」
「さっきから、すごい見てたでしょ」
嬉しそうに、少しだけ得意げに笑う。
「いや、その……
大きくなったなって思って」
「なにそれ。
俺、子供じゃないんだけど?」
拗ねたように言うけれど、
その表情はどこか誇らしげだ。
「……違うよ」
「うん、違う」
テオは一歩、私の隣に並ぶ。
「ちゃんと、
お嬢さまと並べるくらいにはなったでしょ」
その距離が、
さっきよりずっと近い。
私は答えず、
そっと歩幅を合わせる。
テオが、少しだけ歩く速度を落とす。
「……ねぇ、お嬢さま」
「なに?」
「帰り道、もうちょっとだけゆっくり歩こ」
その声は、
さっきまでの明るさよりも柔らかくて、
どこか名残惜しさを隠しきれていなかった。
「うん、いいよ」
そう答えると、
テオはほっとしたように笑う。
夕陽に照らされた横顔が、
どこか大人びて見えた。
「今日さ……すごく楽しかった」
「私も」
「ほんと?」
「ほんと」
テオは嬉しそうに目を細め、
そっと私の手を握り直した。
さっきよりも、
少しだけ強く。
「じゃあ……また一緒に来よ。
次は、もっと色んなとこ」
「うん」
「帰りたくないなぁ」
テオが空を仰ぐ。
「このままお嬢さまと逃避行したい」
「なにそれ」
思わず笑みが溢れる。
遺跡の光、
花畑の香り、
テオの手の温度。
全部が胸の奥に残っていて、
歩くたびにその余韻が揺れた。



