第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

テオは剣を軽く構えた。

「紅く、鋭く――
 我が想いに応えよ、スピネル」

低く囁くと、
魔宝石が紅く光り始める。

テオはその光を剣に宿し、
石壁に向かって――

カツン、と軽く剣先を当てた。

その瞬間。

石壁の表面に、
細い紅い線が走り始める。

まるで誰かが“今”描いているかのように、
線がゆっくりと広がり、形を成していく。

私は思わず息を呑む。

「……これ、なに?」

「古代の“祈りの壁画”なんだって。
 本当は魔力を流さないと見えないんだ」

紅い線はやがて、
男女が寄り添い、空を見上げる姿を描き出した。

その周囲には、
星のような光の粒が舞っている。

まるで――
“大切な人と未来を願う”絵画。

テオが横で、少し照れたように笑う。

「お嬢さまと見るなら……
 こういうのがいいかなって思って」

紅い光が私の髪飾りのルビーに反射し、
淡い光が頬を照らす。

テオの瞳が、その光を映して揺れた。

「……綺麗」

「でしょ?
 でも……」

テオは少しだけ声を落とす。

「お嬢様が見てる顔の方が、もっと綺麗」

胸の奥が、静かに熱くなる。

遺跡の中に、
紅い光の粒がふわりと舞い続ける。