第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「じゃあ、お願いごとして」

「お願いごと?」

「そうそう。なんでもいいよ」

一瞬、間を置いてから、

「あ、でもあいつとのことはナシね!」

……ディランのことか。

思わず、くすっと笑みがこぼれる。

「じゃあ――」

私は小さく目を閉じた。

「みんなが、幸せで楽しく過ごせますように」

静かに、そう願う。

テオは一瞬だけ驚いた顔をして、
それから、ふっと優しく笑った。

「お嬢さまらしいね。
いいよ、…吹き消して」

テオに促され、

「ふーっ」

揺れていた火が、静かに消えた。

「おめでとう」

「ありがとう」

短い言葉なのに、
胸の奥にじんわりと温かさが広がる。

「最初の一口は、お嬢さまね」

そう言って、テオはフォークを差し出す。

「あーん」

「あ、あーん……」

口に運ばれたケーキは、
ふわりとほどけるように甘かった。

「……どう?」

心配そうに、紅い瞳が揺れる。

「おいしい」

「よかった」

その一言で、テオの表情がやわらぐ。

 
二人でケーキを食べ終えると、
テオはそのまま芝生の上にごろんと横になった。

「ねぇー、お嬢さまも」

誘われるまま、私も隣に横になる。

空は高く、
花の香りが風に乗って流れてくる。

そっと、テオの手が伸びてきて、
私の手を握った。

驚くほど自然で、
引き寄せられるような温度。

ふと、
ディランの顔が脳裏に浮かんだ。

私は、そっと手を離そうとする。

けれど――
ゆっくりと、指が絡め直された。

力は強くないのに、
逃がすつもりがないと分かる仕草。

「……今日ぐらい、いいでしょ?」

囁く声は、甘くて、少しだけずるい。

花の香りと、光と、
テオの体温。

その全部が、胸の奥を揺らしていく。