第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

着いた先は、花畑だった。
一面に咲く鮮やかな花が、柔らかな香りを運んでくる。

「……きれい」

テオは何も言わず、
そのままピクニックシートを広げて、籠の中身を並べ始めた。

「どうぞ、お嬢さま」

「ありがとう」

並んだお弁当を見て、思わず目を瞬かせる。

「これ、テオが作ったの?」

「そう!
 レオに教わった」

「すごいね」

「はい、食べて食べて」

差し出されたサンドイッチを口に運ぶ。

「……おいしい」

「よかった」

心底ほっとしたように笑って、
テオも自分の分を頬張る。

その表情があまりに無邪気で、
胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

「あのね」

「なに?」

少しだけ、声の調子が変わる。

「実は、デザートもあるんだ」

「え?」

「お嬢さま、もうすぐ誕生日でしょ?」

「そうだね」

「だからさ。
 一足早く、二人きりでお祝いしたくて」

そう言って、
テオが取り出したのはシフォンケーキだった。

「さすがにクリームとかは傷んじゃうからさ」

「……そっか」

胸が、きゅっとなる。

「嬉しい」

素直にそう言うと、
テオは少し照れたように笑った。

蝋燭を立て、火を灯す。

揺れる小さな光を前にして――

「ハッピーバースデー、トゥーユー」

音程もテンポも、少し怪しい歌。

それが可笑しくて、
思わず吹き出してしまった。

「ちょ、笑わないでよ」

「だって……」

こんなふうに笑える時間が、
ただ、嬉しかった。

花の香りの中で、
私はそっと目を細める。

――こんな誕生日の始まりも、悪くないな。